星になれたら

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 彗星。またの名を、ほうき星。  青白い閃光をちりちりと吹き出しながら、その魔物は空を走る。  たった一瞬の線香花火みたいだ。  これが初めて図鑑で見たときの感想。  うだるような猛暑から解放された一夜に、まんまるのガラスのような火の玉に吸い寄せられながら、縦横無尽に弾き飛ばされる橙色を眺める、あれ。  夏の夜という名の、本物の幻想。  あの数分間の幻想は幼い子供にとっては永遠で、それでいて、そこはかとない空虚感を漂わせる。最後の一滴の橙が地面に消えた途端に現れる暗闇を、はっと感じ取って、そこにぼんやりした何かを捉える。  日本人は儚いものが好きなんだ、きっと。  私も一緒に儚く消えてしまえばいいのに。幾度となく彗星に自分を重ねた。  お前は私と一緒だね、不吉な星と喚き散らされて。  鼓膜の奥にこびり付いている。甲高い、嗚咽の混じる叫び声。  ―――あんたは不吉な星なんだ、災いをもたらす彗星なんだ!  たったひとり、彗星を美しいと言ってくれる人はもういない。
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