星になれたら

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 ―――彗が生まれたとき、お父さんは彗星を見たんだ。  その夜は、澄んだ闇の色が四角く切り取られ、星が降った跡のような街灯りが煌めいていた。  呻き声が静かに反響する。扉を隔てた向こう側では迸るような生命との格闘が繰り広げられていたのだろう。  生と死が淡く共存する、薄暗く無機質の廊下。  ―――彗星のように空を走る、才能に秀でて輝く存在になってほしい。そういう願いを込めたんだぞ。    今でもふと思う。  私、北條彗は父の願いを叶える、流れ星にはなれない。  父は叶うことのない望みを私に託して、死んだ。私が七歳になったばかりの時だ。脳梗塞で突然出張先で倒れたと知ったのはもっと後のことで、当時はカタカタと音を立てる古い映写機からセピア色に落とし込まれたように、曖昧だった。  父は私と兄と弟と母を残して、私という彗星の代わりに、空に落ちてしまったのだろうか。  彼が彗に込めた真の願いは何だったのだろう。  その答えはたぶん一生分からない。もちろん私にも。
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