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星が降る夜に
いつかキミは僕に、「星がひとつも見当たらない、真っ暗闇の空を知ってるかい?」と尋ねてきた。知らない――と僕が答えると、キミは残念そうに目を伏せた。僕はいまでもこうして空を見上げながら待っている。あの日、キミと見た空がやってくるのを、こうしてずっと待ってる。
「イズミ? 今日の夜、あいてる? 珍しいものを見せてやろうか?」
僕の名字を、まるで愛称のように呼ぶキミ。もうすぐ中学生になるとはいえ、深夜の外出など経験したことのない僕は、少し不安になった。でも、「あいてるよ」キミの誘いなら仕方がない。
「じゃあ、自転車で迎えに行くね」
キミと僕の不思議な夜は、そんな風にしてはじまった。
遅刻癖のあるキミは、その日も遅れてやってきた。いつだって、今日は来ないのかな――と心配してしまう。ゴメンと謝るキミ。僕らは月明かりを浴びながら山の上を目指した。
しんと寝静まった民家がポツリポツリ。途中までは緩やかな坂だったから、自転車をこぐのも余裕だったけど、徐々に勾配がキツくなると、荒くなるふたりの息づかいだけがやけに目立った。
体力の限界を感じたふたりは、示し合わせたように自転車から飛び降り、寂れた民家の隅に乗り捨てた。
「ここからは歩いて行こう」とキミ。両足の疲れを堪えながら、一歩一歩、着実に歩いていく。チカチカする星たちは、地球からずっと遠くにあるはずなのに、こうして山の上を目指していると、どんどん近づいている気がするから不思議だ。
無言のままのふたりは、きっと無意識に歩を進めていた。そして、気づけば山の上の見晴台に寝そべっていた。
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