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横を歩くのは申し訳ないからと、男は俺の少し後ろを歩き、マンションまでの道のりを足早に進んだ。
言葉を交わせる状態では無かったので、家に着くまでの間に自分の咄嗟の言動に疑問を持ちつつも、この状況を冷静に分析し、今後の行動を頭をフル回転させ考えた。
「本当にお邪魔していいんですか?」
マンションの前に着き、差し出したハンカチを受け取った男が不安そうに聞いてきた。
どうせもう濡れているからと、雨に打たれた身体からは水が滴り落ちている。
小さなハンカチでは、濡れた顔を拭くことぐらいしかできないだろう。
この男と俺はよく知る間柄…という訳では無い。
この男は俺が勤めている会社の側にあるカフェで働いている。
よく店を訪れる俺の顔を覚えていて、何度か言葉を交わした事がある程度。
名札には確か『広瀬』と書いてあった様な気がするが、名前すら曖昧な相手だ。
「引き止めたのは俺だから。そのまま帰す訳にはいかないし、行く所がないんだろう?」
「はい…、正直とても助かります」
「拾う」という言葉を「行く所がない」という意味に受け取ったのは間違っていなかったようだ。
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