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午後七時。七月上旬といい、外はまだ陽が落ちていかない橙の空ーーが見えるはずが、厚い雲により灰色の空へと変わる。他の先生達と笹を撤去し終え、菜珠葉が自転車のキーを差し込むと、徒歩で帰宅する赤城が告白してきた。
「俺がここに来てからずっと先輩にはお世話になりっぱなしで、こんなの迷惑だと思いましたが、やっぱり伝えなきゃ後悔すると俺、子供達から教わりました」
深紅の瞳には濁りがない。立場を弁えてか少し距離を置くところにも誠実さを菜珠葉は感じていた。ただ、こんなに慌てないのは他の先生から「赤城君が菜珠葉ちゃんのこと好きらしいよ」と小耳に挟んだせいか、違うのか。
「去年はお祝い出来なかったので、今年は夕食、美味しいところとったんです。どうでしょうか?」
ただ、先ほどの会話から分かるように赤城は段階を踏むのが苦手である。ある意味男らしいのかもしれないが、先輩として指導する際、頭を悩ませたところでもあった。
湿っぽい空気を吸い込み、揺らがない思いで菜珠葉は頭を下げた。悲しそうな声が耳に入る。ごめんね。心でもう一度謝りながら雨が降り出す前に菜珠葉は自転車を走らせた。
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