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人は死ぬと星になる。幼稚園に通っていた時、先生がそう教えてくれた。
「なずはせんせーい、これどうむすぶの?」
「これはね、ばってんにしたら下の丸に紐を通して……ほら」
「あ、できた!」
「ひかるくん、上手く出来たね」
「なずはせんせー、きららのとこきて〜」
少年に微笑みを浮かべた女性はすぐに立ち上がり、奥にいるツインテールの少女の元へと駆け寄った。
「あれ?きららちゃん、ちゃんと出来てるよ?」
「ちがーう。みて!」
きららは黄色の短冊を指さす。そこには『ひかるくんのおよめさんになれますように』とハートマークも付けて書かれている。菜珠葉が短冊からきららに顔を目線を動かすと、少女は桃の花のような顔をしていて、笑いあった。
七月七日ーー七夕の日。あまのがわ幼稚園の五、六歳が通うほし組では園長が持ってきた笹に短冊に願いを書いて飾るのが恒例の行事である。
今朝の天気予報を裏切る晴天で、絶好の七夕日和だった。動いていなくても汗が吹き出る。子供達は隣接した小学校のプールではしゃいだばかりなのに飾り付けにはしゃいでいる。
「せんせいは?」
「へっ?」
そんな彼らの様子に頬を緩ませていたせいか、不意の質問に変な声が出る。
「それにきょうっておたんじょうびだよね?あかぎせんせいがいってたよ。おねがいないの?」
「う、うーん。先生はいいかな〜。なずは先生はみんなのお願いが叶えばいいな、と思ってるし」
菜珠葉が返したのは本心であり、決して相手が幼稚園児だからではない。体力だけでなく自身の心のケアもないとやっていけない仕事ではあるが、未知数の可能性を持った子供達からは元気を貰えるし、逆に励まされたりする。人見知りの彼女がここまで成長したのも子供達のおかげだ。ピュアな彼らの願いが何かしら叶って欲しいというのは当然だった。
きららはじっと菜珠葉を見つめると、口を小さな両手で包み、ポニーテールで剥き出しとなった耳に近付いた。
「もしかして、ないしょのすきなひと?」
好きな人。そのワードに心臓がとくんと跳ね、菜珠葉の頭に昔の記憶が再生される。大人の半分よりも小さな手、青い星のヘアゴムが頭のてっぺんから隠れ見え、左右に揺らすサラサラとしたラベンダーピンク色の髪。
「なずはせんせい?」
「せんぱ……じゃない、菜珠葉先生ー!すみません、少しこっちお願い出来ますか?」
奥から懇願する声に顔を上げ、菜珠葉はきららの元から移動した。エプロンに同じ星マークが胸元にある男、赤城満と梯子を変わる。赤城はすぐさま男子園児を二人脇に抱え、トイレへとダッシュしに行った。
ほし組担当の若宮 菜珠葉は、前日、作り方の動画を見つつ。折り紙ですいかや星の飾りを折っていた。手先が不器用な菜珠葉だったが、なかなか良い出来だと彼女は満足していた。あくまで園児達の短冊がメインのため、邪魔しないように籠に残ったものを飾り付けていく。色とりどりの短冊には様々な願いが書かれていた。「宇宙人に会いたい」、「これが欲しい」、「これになりたい」。
(願い事、か……)
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