ep.31 中川兄弟

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ep.31 中川兄弟

※ep15と連動しております (中川視点)  俺の兄貴である中川慶史(なかがわ よしふみ)は、離婚した父母に別々に引き取られたので元家族だ。っても母さんに付いた兄貴はめんどくせぇこともあってか父さんの苗字のままにしてる。 「長期休暇の時くらい、母さんに顔を見せてやれよ」 「てかさ……母さん、再婚とかすんの?」  両親が離婚しても子供らへの愛情はまんべんなく注がれていて、俺も兄貴も両親にウザいくらい繋がりを持たされている。母さんからの連絡ツールもブロックしたくなるくれぇいつもくだらねぇことを伝えてくる。  その母さんがはにかむって言うか最近同じ“オトコ”の話をするし、浮かれたメッセが多かった。 「あー…それ、俺ね。初婚だぞ」 「あ、やっぱそーなのか……え?!」  急にくぐもった兄貴の声。聞こえにくいっつーの……。 「兄貴が結婚すんの? そんな気、見せた事ねぇのに」  28歳だっけ兄貴。俺と10歳くらい離れてるんで結婚って言っても不思議じゃねぇけど、兄貴だから不思議だ。モテねぇわけじゃない顔だけど、バーでバーテンダーなんてチャラい仕事してる割にオンナっ気なかったからな……兄貴、ゲイかと思ってたわ。 「ーーなんて、思ってんだろ、琉士は」 「なんも言ってねぇし!デキ婚?」 「当たってる、さすが俺の弟」 「やっぱデキ婚かよ!」 「そっちじゃね。カンが良いのか悪いかわからないなお前」 「あ″?」 「でさ、お前って香生学園の2年だろ。留年してなかったらだけど(嘲笑)」 「うっせぇな。式なんて出てやらねぇからな」 「米国に来る気あるなら呼んでやるぞ(笑) つか、お前相変わらず他にもそんな口悪いのか?頼みたい事あったんだが、心配になって来たよ」  何回もメッセ寄越してたのは兄貴の結婚が決まったって事だろ。で、親父にも伝えて米国とやらに連れて来いって訳だろうがよ、結局……つか、なんで俺経由なんだ。 「んや、もうわかったから…おめでとー(棒読み)」 「琉士、遠野向糸って知ってるか? お前とタイプが違うから接点は無さそうだけど、一応な」 「あ? なんで兄貴がアイツの名前なんて知ってるんだよ」 「お?知り合いか!」 「ちげーよ」  ソイツなら今さっきすれ違って、個室の狭めぇ浴室からイチャイチャ3人で絡まりながら出て来たのを伝えて見たら「へぇ、そうか。楽しくはやってるんだな」と何故か兄貴は嬉々として声をあげた。 「オトコ3人だぞ?くそ狭い個室風呂で何やって……」 「自暴自棄になっていないならいいんだ。まぁ…乱交とかではないだろうよ、あの子の性格なら」 乱交ってよ……俺もこの学園に在学していてザっと言葉で想像できちゃうのが毒されてるよな。 「何だか知らねぇけど、その言い草から以前から遠野を知ってるようだよな」 スマホを持ち換えて、自販機の前で手にしたカードで牛乳のボタンを押した。 「聞きたいかー?」 「めんどくせー…」 「協力してくれるなら、是非お前に頼みたいことがある」 今までおちょくってるような声を出していた兄貴が一層低い声になって、耳の芯に響いた。
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