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ep.33 向糸の過去 1
校舎に着いたおれは一時間目が終わると案の定、具合が悪くなり保健室で休むことになった。
「向糸兄さま、めっちゃ顔色悪いですよ!? あとの授業のノートは僕に任せて休んでくださいねっ」
小虎は鼻息を荒くして保健室に連れて来てくれた。寝不足のような怠さが残っていたので保健医にも促されて二時間目は休むことにした。
案外、保健室のベッドは居心地が良かった。パリッとした洗濯済みの清潔なシーツと糊のニオイに包まれながら瞼を閉じた。
“だから”だーー。
真実を知りたくなくて、逃げていた夢を見たんだ。
・・・・・・・・・
・・・・・・・
『……こんなところで、マジでレイプかよ!』
DJの声と激しいビートの音楽が響くナイトクラブの中、トイレの個室で響いた怒号。
そこで最後、意識を飛ばした時に他の男性の低い声が聞こえたーー。
その声がまた耳元で聞こえたのは、目が覚めた時だった。
ハッとする間も無く意識が戻ると激痛が即座に襲った。
『ん?起きたのか?意識ねぇ方が治療しやすいんだが……我慢しろよ?』
目の前には小瓶を手にして怪しい薬をおれの方に向けていた年上の若い男がいた。
顔はおぼろげながらクラブでよく見るバーテンダーの一人だと覚醒した脳で確認できた。
なんで?おれ、どうして?
(矢部さん……?)
ズキッと頭が割れるように痛くなって、下半身も確認しなくてもわかる。擦傷で火が付くような激しい痛み。
『いろんな薬は持って来たんだけどな、一応な。けど……まぁひでぇ裂傷してる……』
バーテンダ―の声が耳に届いていても遠くて、その時のおれは“それでも”矢部さんを探していた。
おれが狂わせた、恋人の、矢部さんを。
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