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ep.0 引きこもりの19歳
オレには高校2年の時まで年上の恋人がいた。
それは同性で……。
中学の時に自分が普通と違う性癖なんだって気が付いた。
その中学の多感な時期に大学生の家庭教師として知り合った『矢部さん』にオレは恋をした。
最初は淡い初恋の様な……恋に夢見るオレにとっては矢部さんの声を聴くだけできゅんと胸が高鳴るくらいピュアだった。
声や手が震えるほどの緊張だったけど、勇気を持って生まれて初めての告白をした。
『おれなんかでいいの?』
その返事に、はにかむ矢部さんもオレを好きでいてくれたんだと嬉しくなって抱き着いた。
『矢部さんだからいいんです』
それからは矢部さんに、恋に愛に求められるまま夢中になった。
内気なオレにこんな熱くなる情熱があったなんて驚くほど。
――三年が過ぎた頃だった。
夢が徐々に揺れ始めていって、受け止めることなくあの虹色に輝いていた夢の色が灰色に変わった。
それも、思い出しては自分が無になるほどの虚しくて心苦しい残影を残して。
忘れたくても瞼を閉じればあの頃の矢部さんの顔を思い出す……、いつまでも思い出になれない。
『お前がおれに好意なんて寄こさなければ! お前のカテキョなんてしなければこんな仕打ちはなかったんだ、この淫乱!!』
オレはいつまでも引きずってしまい高校にも行けず引きこもりになって、魂が抜けた状態になったのを本気で心配した両親は、全国各地の高校を調べ上げて自然が多く環境的にも良いと思われる全寮制の学園を勧めた。
地元から離れた田舎を選んだのは、前に進むには自然豊かな学校が良いと思ったからだと言う。
それほどまで両親に心配を掛けてしまったことに今になって気づく……。
オレは我儘にも一年引きこもり、受験に更に一年……本来なら卒業する年齢になっているはずだけど『勉学は遅いなんて事はないよ』と父さんに背中を押された。
ーー今年の春、高校受験を控えていた3つ年下の従兄弟、小虎と同じ私立香生学園高等部に入学する事になった。
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