目覚めたらウサギがいて

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目覚めたらウサギがいて

de115324-c0ae-4249-900f-185c78ec97c6 美沙は、柄を両手でしっかりと握り、地を蹴った。 「飛んだ!」 箒は、ぐん、と跳ね上がり、美沙を乗せて夜空へと舞い上がったのだ。 夜空に輝く星は美しく、足元に広がる夜景も、まるで星屑を敷き詰めたようだった。 「私、飛んでる!」 誰に言うわけでもないが、なんだか、世界中に告げたいような気持ちになり、美沙は思わず叫んだ。 夏の夜だったが、空の上は、空気がひんやりと冷たい。高く上がれば上がるほど、パジャマのショートパンツからむき出しになった足が冷たく感じた。 今日のパジャマが、お気に入りのアリスで良かった!背の高い美沙だから、人気ショップのレディースサイズが着れたのだ。でも、黒いワンピースなら、もっと雰囲気がでたなぁと思った。 美沙は箒の上で前屈みになると、グンとスピードがあがった。箒の乗り方を心得てるなんて、魔女の才能があるかもしれない! ートントン、トントンー 真夜中近くだった。 小突かれるような感覚で目を覚ましたら、そこに、砂時計を首からぶら下げ、タキシードを着たウサギがいた。 思わず叫び声を上げそうになり、あやうくのところを両手で押さえると、そのうさぎが砂時計を美沙の目の前に突きつけてこう言ったのだ。 「5分だけ、箒で飛べる権利を得ましたけど、どうされますか?」 寝起きなのに、妙に冴えた頭の中で、美沙はこう思った。「夢の続きだ」と。 けれども、目の前に差し出された金の真鍮製砂時計は、ひんやりとした輝きをたたえている。中には細やかな薄くて青い砂が溜まっていて、それはそれは美しい代物だ。 ウサギはポケットから懐中時計を取り出し、少し苛立った様子でこう言った。 「悩める時間は、あと1分ですよ」 「あー!やりますやります!」 慌てて返事をした美沙だったが、チラッと目に入ったウサギの懐中時計に驚いた。針が何十本もあり、それぞれが違う時間を指している。更に、美沙が知る時計は12までの数字しかなかったが、その懐中時計は、3段に数字が並んでいて、てんでバラバラの適当な数字が当てはめられているように見えた。 不思議に思って覗きこんでいたら、ウサギはあからさまに嫌な顔をして、懐中時計を引っ込めた。 「さぁ、行きましょう。時間がない」 うさぎは、美沙の手を引いて、窓へと誘った。 「え?ここから?」 パジャマである事はなんとなく諦めていたけれど、窓から飛び降りる勇気はない。 「大丈夫。あなたは今、とてつもなく軽いですからね。フワッと浮くだけです。でも、私と一緒なら、ちゃんと着陸できます」 ウサギはイヤに自信満々だった。夢の続きなら、ドスンと落ちた瞬間に目が覚めるはずだ。美沙はウサギと手を繋ぎ、目をつぶってジャンプをした。 一瞬、浮くような感覚があったが、すぐにふわりと着地した。尻もちどころか、手もつかずに済んだ。 ホッとしたのも束の間、ウサギが家の裏山へと急いだ。そこは、幼い頃の美沙の遊び場だった。頂上へ登った途端、ウサギがどこからともなく、箒を出した。 「さぁ、どうぞ」 どうぞも何も、乗り方を知らない。 「大丈夫。地を蹴り上げれば飛べます」 美沙は恐る恐る、箒にまたがった。 「忘れていました。この砂時計を首から下げてくださいね。地を蹴る瞬間に、ひっくり返してください。砂が全て落ちきったら終わりです」 そう言ってウサギは、美沙の首から砂時計をかけた。夢の割には、随分と重く感じる砂時計だった。 急に暑さを感じて、美沙は目を覚ました。窓の外を見ると、既に太陽は高いところにある。夏休みの特権、朝寝坊だ。 「やっぱり夢かぁ」 昨夜のことを思い出した。とってもリアルな夢だったけれど、空を飛ぶなんてあるわけがない。 背伸びをして、ベッドに起き上がると、首からぶら下がったものに気が付いた。真鍮製の砂時計だ。 驚いた美沙は、首から砂時計を外し、まじまじと眺めた。暑い夏の日に、その砂時計だけがひんやりと冷たさを帯びている。薄青の砂は相変わらず輝いていて、本当に美しい。 「夢じゃなかったの?」 ひんやりとした真鍮は、美沙の手の中でもずっと冷たさを帯びたままだ。ベッドの上でしばらく見つめていると、開けっぱなしの窓から、突然風が吹き上がり、冷たい空気が部屋を満たした。 それは、一瞬だったが、美沙は何故か身震いがした。それほど冷たい風だったのだ。 「返しに行かないとね」 服を着替えて、朝食をとり、身支度を済ませた。ボリュームのあるボブヘアは、イギリスにいるメアリおばあちゃんゆずりだ。玄関で黒いスニーカーを履きながら、「塾に間に合うように帰ってこられるかな?」なんて考えている自分に、美沙はなんとなく腹が立った。
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