不可視の星空

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 そのころの僕は十四歳で、兵隊で、君を運ぶ旅の途中だった。   「むかしむかし。空はきれいに澄んでいて、夜はたくさんの星がきらきら輝いてたんだって」  君はそう言って、空を仰ぐ。  けれど、僕らの頭上に広がっているのは光ひとつ見えない暗黒だ。だから僕は「きらきら輝く」星というものを想像することができない。星、という言葉が、僕らの立っている地球を含む天体を示す言葉だということが、かろうじて脳内に刻み込まれているだけで。  ランタンの明かりに照らされた君は、痩せた指を頭上の暗黒に向ける。 「今も、隠れて見えないだけでそこにあるんだよ」 「誰も見たことがないのに、どうして『ある』と言える?」  僕の問いかけに、君は困った顔をしたけれど、すぐににっこりと笑ってみせるのだ。 「あるって思ってた方が、わくわくすると思わない?」  君の言うことは僕には理解できない。星の有無と「わくわく」がどう繋がっているのかも、そもそも「わくわくする」という言葉がどのような――おそらくは感情にまつわる言葉なのだろうが――状態を示すのかも、わかりはしないのだ。 「昔の人はね、星の位置を示すために、星と星を繋いで、そこから連想した人やものの名前をつけてたんだって」  星座、というのだと言った君の指先が、闇に閃く。 「きっと、こんな感じで」  しらじらとした指が、見えない点から、見えない点へ、見えない線を結んでいく。闇が何よりも深いからだろうか、明かりに照らされた指の軌跡が、不思議と目に焼きつく。
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