不可視の星空

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「たしか、こんな形をしているのが、オリオン座で……」  古い絵本で知ったのだという、星座の名前を唱えながら、ひとつ、ひとつ、闇の中に白い軌跡が増えていく。点から線へ。線は僕にはわからない「何か」を描き出す。 「それで、これが」  点をひとつ。もうひとつ、点。ふたつの点を、線で結ぶ。 「わたしと、君。『ふたり』の星座」 「……僕ら?」 「夜空には数え切れないくらいの星があって、きっとその中にはまだ名前のついてない星だってあるかなって。だって、君の言うとおり、誰も見たことがないんだもの」  そう言って、君は楽しそうに笑うのだ。  ああ、ああ、君は本当に適当なことを言う。  灰に包まれた空はどこまでも暗黒。  その「先」など、誰にも見通せやしないというのに。  それでも、何故か僕の目には君の指先が描いた点と線が焼きついている。 「……どうしたの?」  君が、僕の顔を覗き込んでくる。近い。  ただ、ランタンに照らされた君の目は、いつ見てもそうであるようにきらきら輝いていて。  この終わり行く大地でも「星」というものを見ることができるならば。  この空の向こうに今もなお、満天の星が広がっているのだとすれば。  空のどこかに、僕らを示す星と星座が存在するのであれば。  きっと……、それは、君の目の中に宿る光と同じ色をしているのかもしれない。そんなことを思いながら、灰混じりの風を避けるため、君の肩をそっと抱き寄せた。
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