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「勝彦!勝彦あんた早く起きなさい!もう朝だよ!」
私は2度と聞くことができないと思っていたおっかさんの声で目が覚めた。
何年⋯いや何十年この時を待っていたか。もうあんな悲劇を見るのは嫌だ。今度こそおっかさんを助けてみせる。たとえこのちっこい私の体が使い物にならなくなっても。
私は左にあった掛け時計に目を向けた。
残り時間はあと5分。
私は上に乗っかっていた布団を足で蹴り、布団から急ぎ足で出て走った。
そんなに大きくない家なのに廊下が長く感じた。
やっとの思いで台所に着くとおっかさんの後ろ姿が見えた。
「おっかさん⋯」
感動のあまりつい声をかけてしまった。
「お、勝彦やっと起きたのかい。朝ごはんはもうすぐできるから待ってな?」
おっかさんは振り向いてそう私に言った。
だが私は待ってる時間は無かった。
待たないうちに隣にある勝手口が開いた。
「あ!あんた、おかえり!」
おっかさんがそう言った相手は勝手口から入ってきたおっとさんだった。
だが明らかに様子がおかしいのは子供の姿の私でも分かるほど一目瞭然だった。
目はうつろで顔は青ざめていてさっきから何かぶつぶつと喋っている。私がおっとさんの右手に目を向けるとそこには鉈があった。
あとで分かったんだが、おっとさんはどうやら社長の娘さんに手を出したらしく、賠償金の請求と共に会社を首になったんだそうだ。
こんなバカな奴に私の大事なおっかさんが殺された。
その事実だけはどうしても許せなかった。
「あ⋯あんた大丈夫かい?どこか具合でも⋯」
おっかさんが言い切る前に、あいつは右手にあった鉈を振り上げた。
「おっかさん危ない!!」
私はおっかさんの前出ておっかさんを突き飛ばしてしまった。
こんな小さな体のどこからそんなに力が出たのだろう。おっかさんは数歩後ずさってから尻餅をついた。
その瞬間
「あああああああああああぁぁぁぁ!!?!?」
背中に信じられないほどの鋭い痛みがはした。
そのまま私は地面に倒れた。
ドサッいう鈍い音が体から響いた。
「いやああああああ!?!!?勝彦!?勝彦!!」
背中が熱い。
何か液体のような物がドクドクと溢れてゆく感覚がする。
「⋯俺は⋯俺はこれから⋯」
「勝彦!!勝彦しっかりして!!勝彦!!!」
意識が⋯朦朧としてきた⋯
視界が⋯だんだんと⋯黒く⋯ぼやけて⋯
あぁ⋯今日も⋯⋯セミの音が⋯うるさい⋯
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