万華鏡の一日

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 勢いに任せ、二人は屋根の上に登った。星降る夜の空の下、二人は今までの思い出を語り合った。 「せっかく持ってきてくれたのに、暗くて見えないね」  万華鏡を覗き込んでいた友人はがっかりして肩を落としたが、少年の目には二人を取り囲む星たちの方が、万華鏡よりも輝いて見えた。同じ景色をもう何十年と見ていたはずなのに、まるで初めて見た景色のように少年の心は満たされていた。  楽しいひと時はあっという間に過ぎていく。朝がくればもう離れ離れになるんだ―そう思うと、寂しくなって二人の口数は減り、ただ並んで星空を見上げる時間が増えていた。  いっそのこと、明日なんか来なければいいのに―そう言いたくなる気持ちを堪え、少年は流れゆく星たちを目に焼き付けた。  そうしている間に東の空が白み始めた。 「そろそろ降りようか。僕がベッドにいないことがわかったら、お父さんもお母さんも驚くだろうから。もちろん君の家もね」  お互いの表情はもうすっかり見て取れた。友人の笑った顔が、少年の目に映っていた。最後に、星たちの見えなくなった淡い空の色をもう一度だけ見た。遠く空の縁から漏れ出た光が、街全体を黄色く照らし始めている。  そして太陽が顔を出す― おわり
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