万華鏡の一日

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 ああ、今日が終わる。  静まる街の中を暖かい風が吹く。上を向けば、先ほどまで燦然と輝いていた星たちは、街の端から漏れ出た朝の陽を前にかすみ始めている。白を基調とした街並みに覆いかぶさった夜のカーテンの隙間に、徐々に光が差し込んでいく。黄色と紺色とが混ざり合い、ぼんやりと移りゆく街のようすを、階段にひとり腰を下ろして老人は眺めていた。  もうすぐ今日が終わる―老人は先ほどから同じことを考えていた。手持ち無沙汰に上着のポケットから年季が入った万華鏡を取り出す。持ち手の部分に施された革は、当初さぞ高級な物であったが、今や張りも光沢もなく、皮膚はしわがれ、腰は折れ曲がった老人と同じように、すっかりくたびれていた。しばらく手元で弄んだ後、筒の中に散らばった星模様が回転するさまを覗き込んだ。もう何千、何万と見飽きた景色だった。  一体いつまで繰り返すのだろうか。  そう思った時、ついに太陽の縁のごくわずかな部分が地平線から顔を出した。それも束の間、一転して太陽は頭を引っ込め、見る見るうちに辺りは紺色の闇に飲まれていった。地面の下で足を掴まれた太陽が、地球の裏側に引きずり込まれていくように。  薄れかけていた星たちは再び輝きを取り戻し、すさまじい速度で夜空を流れ、空全体が銀色に渦巻く。まるで逆再生した映像を早送りで見ているようだった。  また、今日は終わらなかった―老人は嘆くことも忘れ、呆けていた。  徐々に街は街灯の明かりに包まれ、通りは人で賑わい始めた。橙色の太陽が西の空から昇る。街に活気が戻るにつれて、太陽は黄色く輝きを増し空は青くなる。道行く人々は皆後ろ向きに歩き、空っぽだった市場の店頭に野菜や果物が積みあがっていく。それらは一分にも満たない間に起こった。老人は時が戻り移り変わっていくようすを、ただ眺めるしかなかった。  そうして太陽が東の空に着地すると、雀の鳴き声がして、それまで何事もなかったかのように一日が始まるのだった
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