4人が本棚に入れています
本棚に追加
さっそく仕事にかかるとするか
その頃、ある怪盗が金持ちの屋敷へと今まさに押し入ろうとしていた。数か月前から狙いを定め、その屋敷に眠っているはずのカネと宝飾品をいただくための策を練っていた。今夜がまさに実行の時なのだ。
「鍵はちゃんと持ってるな?」
屋敷の裏口で、怪盗は屋敷の下働きの男に小声でたしかめる。
「もちろんです。ここに」
下働きの男は数本の鍵を怪盗に見せ、これが金庫のある部屋の鍵で、こっちが金庫の鍵だと説明する。金持ちの持っているはずの鍵をそっとかすめ取ってきたのだ。
「よし。じゃあ、さっそく仕事にかかるとするか」
怪盗と下働きの男は屋敷の中にそっと忍び込み、カネや宝飾品をしまった金庫のある部屋へとこっそり歩いてゆく。足音を立てずに廊下を歩くが、それでも板張りの廊下はときどきギシギシと鈍い音を立てる。
そのたびに下働きの男の心臓は大きく波打ち、動揺を押し隠すために息を殺す。けれども、怪盗はそんなものなど気にすることもないというふうに廊下を静かに進んでゆく。
「大丈夫だ。金持ちはぐっすり寝てるんだろ? 廊下がちょっとばかりギシギシ音を立てたって、気付きやしないぞ」
怪盗が小声でささやいた。下働きの男は動揺を隠せないままに、ぎこちなくうなずく。怪盗は屋敷の奥へと少しずつ歩みを進める。下働きの男は怪盗のあとに従う。
最初のコメントを投稿しよう!