4人が本棚に入れています
本棚に追加
名乗るほどの者ではないが
「お前、下働きの……」
金持ちは下働きの男がそこにいることに気づいたようだ。
「すみません、旦那さま」
下働きの男は気が動転して、その場に震えながら立ち尽くす。
「お前、そんなに縛り首になりたいか! こっちはせっかくお前みたいな奴を雇ってやってるんだ! それなのに恩を仇で返すような真似をしやがって!」
金持ちの怒鳴り声に、下働きの男はすっかり震え上がる。金持ちの手には棍棒が握られている。それは護身用にいつもベッド脇に置いてある棍棒だ。
「ははは。お怒りのようですね。この薄汚いカネの亡者め」
下働きの男のそばで、怪盗が愉快に笑う。
「お前は誰だ!」
金持ちが棍棒を手にしたまま怒鳴る。
「名乗るほどの者ではないが、まあ泥棒家業ひと筋ってところだな。今夜はお前さんの屋敷で仕事をさせてもらっている」
怪盗はあくまで余裕でこたえる。金持ちの怒りさえももてあそんでいるかのように。
「何が仕事だ! 泥棒の分際で!」
金持ちは棍棒を振り上げる。下働きの男は思わず身をすくめる。そのときだった。寝室の窓ガラスが豪快な音を立てて割れた。それから窓の外からなにかが素早く飛んできて、金持ちの振り上げた棍棒に巻きつく。そのせいで金持ちはどうしても棍棒を振り下ろすことができない。
最初のコメントを投稿しよう!