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これは悪い夢なのか?
「誰だ、おれの邪魔をするのは! こんな薄汚い真似をするような泥棒なんぞ、おれが叩きのめしてやるところなんだ!」
金持ちの男が振り返る。そこにいたのは巨大な毒蜘蛛だった。派手な音を立ててガラスの割れた窓から飛び込んできたのだ。
金持ちが振り上げた棍棒に巻きついたのは、巨大な毒蜘蛛が放ったクモの糸だ。太さのあるクモの糸は、星明かりを浴びて淡い銀色に染まっている。その糸が何重にもぐるぐると棍棒に巻きついている。
「やろうと思えば、お前の身体さえもこの糸であっという間にぐるぐる巻きにできたんだぜ? けど、棍棒だけをぐるぐる巻きにしてやったんだ。そこは感謝して欲しいね」
巨大な毒蜘蛛は金持ちにそう告げる。金持ちは人ならざる存在を目の前にして、恐怖と驚きの表情だ。これは悪い夢なのか? そんなふうに自分自身に問いかけているような表情でもある。
人の背丈ほどもある巨大な毒蜘蛛が二本足で立ち、しかも人間の言葉でしゃべっている。そんな光景が意味するところを、下働きの男もよく飲み込めないまま、驚きと恐怖にまみれて立ちすくむ。巨大な毒蜘蛛? しかも人間の言葉をしゃべる? わけがわからない。
部屋の中にいる人間の中で唯一、怪盗は不敵な笑みを浮かべながら巨大な毒蜘蛛の姿を眺めている。
「俺は盗人を懲らしめるためにここにやってきたんだ」
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