星を知る人

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 父は、体罰がまかり通る時代に地元で名の知れた高校教師だった。家庭でも厳しく、一人娘の私には常に周りより少しでも優れている事を強要した。何か反抗しようものならばすかさず手を上げ、口でけなし、最終的には戸外に出して一晩放置。蚊の鳴く真夏だろうが、凍える真冬だろうが、お構いなしだ。そして私は、ひとりの夜を星と共に過ごす事を覚えた。 「本当にね、綺麗なの。心はもうぐっちゃぐちゃだったけど、星が綺麗だという事だけはわかった。綺麗だな、って思っていられる間だけは救われた」  牛尾はただ、うんうん、と相づちを挟むだけで黙って私の独白に耳を傾けている。周りの客の声にかき消された所はちゃんと聞き直してからまた、うんうん、と続けた。 「高校卒業と同時に上京したの。多分もう帰らない、帰れない、そういうふうに決めて。でもやっぱり、生まれ育った家を出て本当にひとりになって、不安で。見上げてもここの空は星がないでしょう。ちょっとしたパニックになっちゃって」  少しでも星に近い仕事を探していた時に出会ったのが、東城百貨店の求人だった。でもあのプラネタリウムがなくなったら、 「私はまた、星を見失ってしまう」  カウンター席に落ちる照明は、置いたドリンクが映えるように設定されていた。ティーソーダの気泡が弾ける度に光り輝いている。結露した水滴が手の甲を伝うのもそのままに、牛尾はグラスをぎゅう、と握りしめていた。 「僕も、星に救われた事があります」  牛尾は意を決したようにソーダを呷ると、アルバムの中の星を眺めながら訥々と語り始めた。
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