三杯目 看板娘

2/7
前へ
/44ページ
次へ
 青年はカウンターに頬杖をつき、店内を物憂げに眺めていた。  その頭上から。  近づいてくる何か。  杯。  物思いに(ふけ)っていた青年は気づくのが遅れ――。  酒を持ってきた青年が(かね)も受け取らずにボーっと突っ立っている。 「奢ってくれるのか?」 「綺麗だな……」  噛み合わない受け答えを不審に思った男が(いぶか)しむ。  青年はエルフの娘の横顔に見惚(みと)れていた。  生糸を思わせる長い銀髪。  その合間から憂いを(たた)えた涼しげな目元が覗く。  石畳の隙間に咲く花のように可憐で凛とした唇から(こぼ)れる吐息が悩ましい。  白磁のごとき頬をほんのりと染めるのは(べに)か酒か。 「ああいうのが好みか?」 「……! いや、そういう意味じゃなくて!」  我に返った青年が耳まで赤くしながら言い(つくろ)う。 「やめとけ。おまえには高()の花だ」  青年はぎょっとして、ようやく男を見た。 「もしかして美人局(つつもたせ)なのか?」 「ほう、難しい言葉を知っているな」  男が大袈裟に感心してみせた。 「まあ、恐いお兄さん達がついているのは似ているが」
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加