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喝采。
怒号。
悲鳴。
哄笑。
あらゆる感情の入り混じった喧騒が英雄亭の扉からあふれ出た。
少年の面影が残る青年は気圧され、ためらい、隠れるように店に入った。
酔っ払いの海をかき分けて進む度胸があるはずもなく、足は自然と人の少ない方へと向かう。
だからそこに流れ着いたのは必然。
店の隅、薄暗い柱の陰。
開業当時から唯一残る年代物のテーブルセットを中年男が一人で占拠している。
男が青年に気付き、ニヤリと笑った。
「新入りか? まあ、座れ。一杯奢ってやろう」
青年は誘われるままフラフラと男の向かいに座った。
コンコン。
空になった木の杯でテーブルを叩いて店員を呼ぶ。
しかし近くにいる女店員は背を向けてカウンター越しにバーテンと話し込んでいる。こちらに気付いた様子はない。
男は杯をふわりと放った。
杯はゆっくりと回転しながら綺麗な放物線を描く。
コーン、と間抜けな音を立てて杯は女店員の頭で跳ねた。
女店員が振り向く。その笑顔に青年が凍りつく。
「どうして普通に呼べないの!?」
「呼んだんだが、気付いてもらえなかったので仕方なく」
「たまには自分から来たら?」
「常連に対する接客態度とは思えんな」
「常連と上客は違うのよ。どうせ一番安い酒でしょ?」
「いつものを二つだ」
男が青年に目をやる。それで初めて女店員は青年に気がついた。
ジロリと値踏みするような視線を受けて青年は居心地悪そうに身動ぎした。
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