一杯目 冒険の始まり

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 青年はワナワナと肩を震わせ、冒険者登録証(タグ)を握りしめた。 「クソッ、それじゃこれも偽物か!」 「安心しろ。そいつは本物だ。()()()()冒険者にしないと助成金は貰えんからな」 「剣の扱い方もろくに知らないのに、何が()()()()した冒険者なんだよ!」  青年は自分で言ってて悲しくなった。 「考えてもみろ。大量の希望者全員を国だけでチェックできると思うか?」 「それは……」 「冒険者の認定は国から許可を受けた冒険者ギルドが行う。冒険者登録証(タグ)におまえを認定したギルドの名前が書いてあるだろう」  青年は改めて冒険者登録証(タグ)を見た。 「『ヒドラの尻尾』……?」 「養成所と同じようにギルドもピンキリだ。養成所とズブズブでフリーパスなところもある。『ヒドラの尻尾』はその筋では有名な()()だよ」  あまりの怒りに青年は思わず立ち上がった。 「ウソをつくな! そんなでたらめなギルドが許可をもらえるわけがない」 「実績さえ出せば問題ないさ」 「オレみたいな冒険者をいくら増やしても実績になるか!」  青年はさらに悲しくなった。 「()()な奴はおまえらとは別の場所でちゃんとした訓練を受けている。みっちりとな。そっちで実績を稼ぎ、おまえらで金を稼ぐ。うまくできているだろ?」  ヘナヘナと青年は椅子に腰を落とした。 「オレには素質があると言ったのに……」  素質があれば訓練を受けられたはずなのに。 「いや、おまえには素質がある」  青年が顔を上げた。 「冒険者になれるのは金と自分の命を天秤にかけられるバカだけだ。ま、あっさり騙されているようじゃ、素質はあっても成功する()()はなさそうだが」  男が酒を飲み干して立ち上がった。 「そう悲観するな。ものは考えようだ。なまじちゃんと訓練を受けていたら、おまえは今頃生きちゃいないさ。良かったな、命まで取られなくて」  男は青年の肩を叩いて店を出ていった。  青年は手の中の冒険者登録証(タグ)を見つめる。  いつまでも。  *  ここは英雄亭。  死者を(いた)んで生者が祝杯を挙げる場所。 つづく
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