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店の隅の薄暗い柱の陰。
開業当時から唯一残る年代物のテーブルセットで一人、中年男がいつものように飲んでいた。
杯が空になったのでいつものように店員を呼ぶ。
杯はいつものようにゆっくりと回転しながら綺麗な放物線を描き、コーンと間抜けな音を立てて店員の頭で跳ねた。
振り返った店員はいつもの顔ではなかったが、見覚えがあった。
少年の面影が残る店員が仏頂面で男のもとにやってくる。
「注文は?」
「おまえと飲んだときと同じ奴を一つ」
青年は仏頂面でカウンターに戻った。
コトン。
青年が男のテーブルに新しい酒を置いた。
「まだ故郷に帰ってなかったのか」
田舎でくすぶっていた青年は『冒険者にならないか?』とスカウトされ、二つ返事で王都の養成所に入った。しかし養成所は補助金と支度金をせしめると、青年を形だけ冒険者にして放り出した。
「このままおめおめと帰れるか」
首にかけた冒険者登録証を服の上から握りしめる。
「そんな物でも田舎ならハッタリにはなる。警備の仕事くらいにはありつけるかもしれん。食っていくだけなら何とかなるだろう。モンスターが襲ってきたりしない限り楽な仕事だ」
「本当に襲ってきたらどうするんだ」
青年のクラスはファイターだが、ダンジョンに入ったことはおろか剣を握ったこともない。
「その時は潔く死ね」
「他人事だと思いやがって」
「他人事だからな」
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