二杯目 落穂拾い

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 店の隅の薄暗い柱の陰。  開業当時から唯一残る年代物のテーブルセットで一人、中年男がいつものように飲んでいた。  杯が空になったのでいつものように店員を呼ぶ。  杯はいつものようにゆっくりと回転しながら綺麗な放物線を描き、コーンと間抜けな音を立てて店員の頭で跳ねた。  振り返った店員はいつもの顔ではなかったが、見覚えがあった。  少年の面影が残る店員が仏頂面で男のもとにやってくる。 「注文は?」 「おまえと飲んだときと同じ奴を()()」  青年は仏頂面でカウンターに戻った。  コトン。  青年が男のテーブルに新しい酒を置いた。 「まだ故郷(くに)に帰ってなかったのか」  田舎でくすぶっていた青年は『冒険者にならないか?』とスカウトされ、二つ返事で王都の養成所に入った。しかし養成所は補助金と支度金をせしめると、青年を形だけ冒険者にして放り出した。 「このままおめおめと帰れるか」  首にかけた冒険者登録証(タグ)を服の上から握りしめる。 「そんな物でも田舎ならハッタリにはなる。()()の仕事くらいにはありつけるかもしれん。食っていくだけなら何とかなるだろう。モンスターが襲ってきたりしない限り楽な仕事だ」 「本当に襲ってきたらどうするんだ」  青年のクラスはファイターだが、ダンジョンに入ったことはおろか剣を握ったこともない。 「その時は潔く死ね」 「他人事(ひとごと)だと思いやがって」 「他人事だからな」
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