二杯目 落穂拾い

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 青年は深いため息をついた。受け取った酒の代金(チップは含まれていない)を弄ぶ。 「同じ(ひと)り飲みでも、あっちの人とは大違いだ」  青年は店の奥に視線を送った。騒がしい酒場から切り取られているかのような一角、その中心に黒い外套を(まと)ったままの男が超然と座っていた。  瞳に影を宿した男はテーブルに肘杖をついた彫像のようだ。  忘れた頃に高そうなラベルのボトルから澄んだ琥珀色の液体をグラスに注ぎ、あおる。にこりともせずに。 「あいつは特別だ」 「冒険者じゃないのか?」  外套の下に鎧を身に着け、テーブルに楯と長剣を立てかけた(たたず)まいは、これから戦場に(おもむ)く騎士を彷彿(ほうふつ)とさせる。変わり者が多い冒険者でも、武装したままくつろぐ者はいない。 「魔王が暴れていた時代に作られた()()のダンジョンをいくつも攻略した()()の冒険者だよ。こんなところで小遣い稼ぎしている連中とは違う」 「そんなにすごい人だったのか……何でこんな所にいるんだ?」 「さあな。一人だけで帰ってきたってことは、ろくでもない理由があるんだろう」  ゴクリと唾を飲み込んで、青年は改めて外套の男を見る。その表情からは何の感情も読み取れなれなかった。 「どこのパーティーにも入ってないなんてもったいないな」 「だったらおまえが声をかけてみろよ。『僕とパーティを組んでください』って」  青年は顔をしかめた。 「そんなこと恐れ多くてできるか」 「そういうことだ。あいつと釣り合うパーティなんてここにはない」
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