二杯目 落穂拾い

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 男がもう一杯注文しようとしたとき、バン! と荒っぽく店の扉が開けられた。  埃と血にまみれた冒険者が二人、入ってくる。  外套の男を見つけるとまっすぐにそのテーブルへ向かった。  恐縮しつつも切迫した様子で必死に話しかける。  男が外套を翻して立ち上がった。剣と楯を手にして店を出る。  二人の冒険者が慌ててその後を追った。  バタンと音を立てて入口の扉が閉まると同時に、近くで耳をそばだてていたドワーフが勢いよくテーブルの上に乗った。 「今回は俺が仕切らせてもらうぜ!」  その声はいつの間にか静かになっていた酒場に響き渡った。 「痩せた畑にタネ4つだ。さあさあ! とっとと収穫しやがれ!」  酒場中の冒険者が色めき立つ。 「あの様子だとタネが播かれてからそんなに時間は経ってない。案外収穫は多いかもしれんな」 「痩せた畑でも場所によるぞ。()()()だったら小麦は望み薄だぜ」 「おれは小麦2、大麦2を金貨5枚だ!」 「なかなか攻めましたな。じゃあ私は大麦2、落穂2を金貨3枚で」  突然の出来事に青年は戸惑う。 「いったい何が始まったんだ?」 「あいつの仕事の成果を賭けてるのさ」 「あのひとの仕事?」 「サルベージ(ドブさらい)、ダンジョンで遭難した冒険者の捜索だ」  男の答えに青年は首をひねる。 「それと麦の取引に何の関係が?」 「隠語だ、隠語。今回は中層で遭難者が4人。『小麦』が生存者で『大麦』は死体」 「それじゃ『落穂』は……」 「タグだけ」  青年は言葉を失う。 「普通ならタグすら見つからないことも多いが、あいつは現場への到着が抜群に早いからな。収穫0ってことはまずない。だから賭けが成立する」  青年が(うめ)いた。 「人の生死を、しかも部外者が賭けるなんてどうかしてる」 「イカれているのは同意するが、部外者ってのは違うな。奴らはいつ自分が賭けの対象(タネ)になってもおかしくないことを知っている」  それでも青年は不満げだった。 「まだ納得できないか? ここにいてもできることはない。なら、せいぜい()()()()()やれ」  青年は少し考え、ドワーフを振り返り、叫んだ。 「小麦4を銅貨5枚!」  男は苦笑する。 「セコイ祈りだな」  *  ここは英雄亭。  死者を(いた)んで生者が祝杯を挙げる場所。 つづく
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