男妾

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男妾

 正一が働きたい、などと言ったせいか、久野木は離れに、販売員(バイヤー)を連れてくるようになった。  デパートの外商顧客らしい久野木に、販売員はぺこぺこと頭を下げる。ハンカチからネクタイピンにエナメル靴、香水……どれもこれも、麻袋にサツマイモを詰める庶民が、手に届きそうにない、娯楽品ばかり。 「先生、お好きなものを」  期待するように、久野木が小首を傾げる。特に欲しい物がない正一は、仕方なくハンカチを一枚、手に取った。 「それですか?」 「……うん」  そうすると、勝手に久野木が服や小物を選んでいく。 「これ、先生に似合いそう」「これはどうです?」「これ、よさそうじゃありませんか」……話しかけられるたびに、うんとか、ああと、上の空で、正一は返事をした。  午前中はデパートの販売員がやって来て、午後は書店員がやってきた。カタログを見せられ、珍しい洋書を二、三冊選んだ。 「明日も呼びますね」 「いいよ……十分だよ」  正一が断ると、念押しするように、覗き込まれる。視線から圧力を感じて――内心を見透かされそうで、正一は目を背けた。  欲しい物……そう言われたら、男が欲しい。  男に抱かれたくて、たまらない。  正一の体は、疼きと火照りが、日に日に酷くなっていた。久野木が離れを後にすると、ベッドの中で自慰をするのが、正一の日課になっていた。  性器を扱くが、後ろを開発された正一は、なかなか射精できなかった。自分の指を尻に這わせて、孔を弄った。  物足りない  自分の指では思うようにイけない。ますます欲求不満になった正一は、教え子の指を想像した。  物好きなのか、年上の男を、甲斐甲斐しく世話をする久野木。血管の浮いた腕と、骨ばった指に、何度、生唾を飲み込んだか。  あの長くて太い指に、孔を掻き回されたら?いや、指の大きさから、きっと「あれ」も大きいはずだと、正一は息を乱した。  すぐ近くにいる、若くて頑丈そうな男の下半身を想像する。どれくらい大きいだろうか……長さ、太さ……もし挿れられたら……きゅっと孔が締まる瞬間、性器が吐精していた。  教え子をセンズリの妄想に使っている罪悪感と興奮で、正一は射精していた。  正一を尊敬していると言う久野木は、手取り足取り世話をしても――何故か金は一銭も渡さなかった。  欲しいものがあれば、伝えてと言う教え子は、自分がいなかったら、秘書の糸川に頼んでくれと言う。  ここまできて、正一は何不自由ない生活が、息苦しくなっていた。一人で外に出ようとすれば、必ず使用人に声をかけられる。運転手が飛んできて、車を出しますと言われる。  外出する時は、荷物持ちだと使用人が傍にくるのも、鬱陶しかった。いくら断っても、久野木の指示だと言われる。もう一つ、気がかりだったのは…… 「今日は神田にお出かけを?」 「……ああ、うん」 「書店なら、私もご一緒したいです」  仕事から帰った久野木は、正一の行き先を知っている前提で、話をする。監視されているようで、正一は気詰まりだった。  一人で、屋敷から一歩も出られない不自由さも相まって、正一の体は限界だった。  男に抱かれたい  あれだけ好いて、心配していたベスのことなど、頭から消えうせていた。もう男が欲しくてしょうがなかった。  上野には男のパンパンがいるらしい。噂を聞いていた正一は、男を買いたいとまで考えるようになっていた。  でなければ、教え子を不埒な目で見てしまう。目下の悩みは、抑えきれない肉欲が、教え子に向いていることだった。  いつも通り、仕事から帰ってきた久野木と夕食を共にした。風呂に入ろうという時に「お背中を流します」と言われて、しぶしぶ頷く。  久野木が今日はもっと広い浴場がいいと言う。  連れて来られたのは、母屋といえる屋敷の方の、大浴場だった。  普段は袖をまくるだけで、服を脱がない教え子が、隣で釦を外し始めた。 「私も汗を流したいです」 「……そう」  躊躇いもなく、久野木が服を脱いでいく。シミや傷一つない、逞しい体を晒す教え子に、正一は唇を噛んだ。  最初は貧弱な体を見られるのに、劣等感が刺激されていた。今や若い男の裸体は、目に毒だった。  石造りの浴場に入ると、久野木が風呂椅子を二つ、運んできた。 「先生」  正一の後ろに椅子を置き、腰かけると、背中に湯を流し始めた。石鹸を泡立てたタオルで、正一の背中を、教え子が洗っていく。その度に、指があちこちあたるから感覚に――正一はじっと我慢していた。  ぴくりぴくりと小さな震えに気が付かないのか、久野木は不用意に、わき腹を掴んだりする。息を乱しながら、じっと耐えていた。 「先生、どうですか」 「ああ……いいよ」  体を洗い終わる頃には、正一は疲れから、頭がぼんやりしていた。反応しかけている前を何とか隠しながら、湯船に浸かる。  隣に入って来た教え子を――見てはいけないと、自制がきかなかった。水を弾く肌と、下半身のイチモツに、咽喉が上下した。  勃起したら、さらに大きくなるのでは……?つい鹿俣の巨根を思い出し、比べていた。あれぐらいの大きさになるのではと、正一の息はますます上がった。 「先生、今うちの造船事業なんですけど、これから――」  隣で久野木が話をするが、耳に入らない。立派な胸板の男に、抱かれることばかり頭を占めていた。 「――で、それで取引相手も増えて……先生?」 「すまない、のぼせた」  肩を揺さぶられて、もう我慢できなかった。飛び上がるように湯船から出ると、正一は冷水を、下半身にかけた。 「え?先生?」 「先に戻る――おやすみ」  半勃ちになった性器を隠すように、脱衣所に出た。乱暴に体を拭っていると、教え子まで風呂から上がってきた。 「まだ君は浸かっていればいいだろう?!」 「いえ、私も上がります」  笑顔で寝間着に着替える久野木に、怒りが湧く。八つ当たり同然の感情を抑えながら、正一は浴衣の帯を締めた。  さっさと離れに行きたいのに、腕を掴まれたところで――大声が出ていた。 「なんだい?!」 「えっ……と」  いきなりの怒鳴り声に、久野木がたじろいだ。驚いた表情に、はっと我に返った。久野木は何も悪くない。 「あ、の……すまない。のぼせて、体が暑くて……余裕が無くなってしまったよ……」 「いえ、私こそ気が付かず、申し訳ありません。あの、実は……」  案内されたのは、畳の和室だった。見た目は洋風の造りでも、室内を一部、和室にしたのだと教えられた。  旅館の宴会場ぐらい広さがある部屋に、二組の布団と、檜の卓上に酒が用意されていた。 「明日、私はお休みですから、つい寝っ転がって、酒など飲みたくて……ですが先生、お体の調子はあまり良くないですよね」 「すまない……もう横になりたい」 「分かりました」  女中がやってきて、酒を片付ける。隠れるように、布団に潜り込むと、部屋のランプを消された。  暗くなったところで、ほっと息を吐いた。  隣で教え子が眠るなか、正一はもう我慢できなかった。隣で眠る男に、背中をむける。ごそごそと帯を解き、半勃ちになった性器を握る。 「ん……」  着物を咥えて、声を押さえた。そろそろと、もう片方の指を、窪みに這わせる。 「んっ……ぅんっ…っ」  右手で扱きながら、左手で後ろを弄る。頭の中は、久野木の男根でいっぱいになっていた。  太くて大きかった……触り心地は、硬さはあるのか……あの雄に貫かれたら……妄想に憑りつかれ、ため息をついた。 「あっ……」  咥えていた袖が落ちて、声が出る。慌てて袖を噛もうとした時――肩を掴まれる感触に、びくりと体が反応した。 「――先生?」 「なっ……」  不思議そうな声。慌てて、はだけていた寝間着を整えようとしたが、遅かった。ぱっと周囲が明るくなる。  眩しさに、目を瞑った。 「先生?何を……」  教え子の呆然とした声に、正一は愕然とした。おそるおそる目を開けて、振り向いた時には――呆気に取られた久野木の顔が、そこにはあった。  はだけた浴衣。下着はずり下がり、左手は尻に―― 「ち、違うっ!」  震える手で、浴衣を整える。下着はずり下がっていたが、そんなことを気にしている場合ではなかった。  布団から飛び上がるように起き上がると、ドアに向かった。 「先生?!」 「は、離れで寝るっ!君はここで、休みなさ――」  後ろから左腕を取られる。もの凄い力に引っ張られ、気が付いた時には、布団に転がっていた。  瞠目した教え子の手が、眼前に迫っていた。 「触るな!」 「っ……」  手が宙で止まる。瞳孔が開いた目には、髪を乱した、情けない男の姿が映っていた。 「やめてくれっ……やめてくれっ、たのむ!」 「でも、先生……お辛いのでしょう?」 「っう……」  宙で止まった手が、躊躇いがちに、正一の下半身に触れた。下腹部が、びくりと大袈裟に反応した。 「今、楽にしますから」  穏やかな口調の教え子が、下半身に顔を近づける。  なにをしてるんだ――怒鳴り付けようとしたところで、局部を握られた。 「ひっ」 「先生……」  半勃ちになった性器を、年下の男が咥える。ぱくりと、温かい口腔に包み込まれた。正一の体から、力が抜ける。  目の前の――美しい顔が、股間で上下するのを、呆然と見つめていた。  卑猥な水音と共に、快感が大きくなっていく。肉厚の舌が、性器を舐める。そのおぼつかない舌の動きに、正一は悶えた。 「んっ……んっ、んっ……」 「く、くのぎぃ……口を、離しなさい!」  教え子のもどかしい口淫に、体が喜んでいた。反対に、心に生まれた罪悪感が、どんどん膨れ上がっていく。  感じてはいけないと戒めても、久しぶりの口淫に、腰が跳ねていた。 「久野木っ!」 「んぅ、せぅ、せぇっ、ううんっ」  顔を真っ赤にした教え子が、懸命に奉仕する。下腹辺りから、ズキズキと重たい疼きが、生まれていた。  固い黒髪に手を入れ、頭を押し返そうとすれば、ぐっと性器を飲み込まれる。美貌の男が顔を歪めて、同性に奉仕する様子に――酒も飲んでもいないのに、正一は酩酊していた。  意識すればするほど、後孔が疼く。刺激を与えられれば、内壁が収縮するようになった正一は、もどかしかった。  奉仕してもなかなかいけない様子に、教え子が口を離した。 「ど、どうして……?」  唾液に塗れた唇を拭う。浴衣の前がはだけて、筋肉質な胸板がのぞいていた。 「……やはり玄人がいいのですか」 「ち、ちがっ!」  やはり玄人――?   言葉の意味するところに、不可解さを覚えたが、再び、久野木は股間に顔を埋めようとする。慌てて辞めさせた。 「いい、もういいからっ」 「でも、せんせぇ……」  泣きそうな表情に、ふと視線を落とした。教え子の乱れた浴衣が、盛り上がっていた。正一に奉仕して、勃起した性器を、恥ずかしそうに手で隠した。 「……ごめんなさぃ」 「久野木……」  窮屈そうに下着を押し上げる局部に、口内は唾液が溢れた。そっと手をどけてやり、若い男の股間を撫でる。  久野木は頬を紅潮させ、息を吐いた。 「先生……私、経験が無くて……」 「……女とも?」  驚いたことに、美青年は首をこくりと動かした。妙齢の男は、涙で目を潤ませていた。 「先生……おしえて……?」  下着を降ろすと、ぶるりと性器が飛び出した。エラの張った亀頭は、本当に使われていないのか、桃色だった。  年若い男の、荒ぶった屹立を握る。想像以上の硬さに、正一は歓喜のため息をついた。 「久野木……そこに、横になりなさい」 「はい、先生……」  仰向けになった教え子が、正一を見上げる。股間の性器は、天井を見上げるように、直立になっていた。 「んっ、んんぅ、んっ」 「先生?」  滑潤剤もないので、なんとか指で、尻を解した。久野木の男根を見ているだけで、早く早くと、内壁が鳴き声を上げる。  浴衣が肩から滑り落ちたが、どうでも良かった。正一は、横たわる男にまたがると、屹立を、尻の割れ目に添えた。 「あ……はぁっ……」  入口に、ぴたりと亀頭を押し当てた。大きさにびくつきながらも、少しずつ、剛直を飲み込んでいく。 「あっ……せんせぃ……」  指で拡げた孔が、ずぷりと、亀頭を飲み込んだ。じわじわと内壁が、雄に絡み付いていく。隆々とそびえ立つ肉棒が、飲み込まれていくのを――久野木は息を潜めて、見つめていた。 「あっ、はっ……く、のぎっ」  教え子にまたがり、腰を屈めた正一は、脂汗が滲んでいた。カリ首をもたげたうわばみに、快感よりも苦しさが勝っていた。  ずくずくと肉棒を食(は)む内壁が、喜びからうねりを上げる。快感で歪んだ教え子の顔を、正一は見下ろしていた。  もう十分太いのに、また中で大きくなる男根――内臓を押し上げられる感覚がして、息が上がる。 「あ、あぁ……」  やっと根本まで飲み込むと、お互いに息を吐いた。 「先生……」  正一の下で、はっはっと荒い息が聞こえる。その度に、乗り上げた男の胸が、大きく上下した。はだけた着物からのぞく、汗ばんだ胸板に、そっと手をついた。 「せんせい……」  教え子の目は、快楽でぼやけていた。 「せん、せいのなか……おかし、い……おかしくなる」  うわ言のように「おかしい」と、教え子は口走っていた。雄を食い占めた正一は、堪能しようと――腰を振り始めた。 「くのぎぃ」  だらしなく口を開け、かくかくと腰を揺する。咥えたイチモツを食べ尽そうと、締め付けた。 「あっ、あっ、あっ、あんっ」 「先生っ、せん、っ!ま、って!あぁっ」  正一は腰が止まらなくなっていた。久しぶりの、年若い雄。思う存分、味わいたくて―― 「お、美味しい、おいしぃ、おいしぃっ!」  教え子に乗って、無我夢中で腰を振り立てる。口から唾液を零しながら「美味い、美味い」と喘ぎ声を上げた。  正一の下、翻弄される青年は、快感で顔を歪めていた。これが名器と言うのか。男根を締め付け、絡み付いた内壁は柔らかくも、容赦がなかった。 「――あんっ」  しゃぶっていた雄が、なかで射精したと同時に、正一も昇りつめていた。痙攣する体は、熱い飛沫に、新たな快感を拾う。  上体を起こした久野木が、ずるりと倒れ込んだ体を支えた。 「先生……」 「……くのぎ……?」 「夢、みたいでした……極楽に連れていってもらったみたいだ……」  熱っぽい口調で、抱きしめられる。中を貫く屹立が、再び硬さを取り戻し始めていた。正一は、快楽に沈んだ体を、青年に押し付ける。  熱い唇を合わせ、唾液を啜り合った。
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