今宵を星の降る夜に

2/9
前へ
/9ページ
次へ
私が勤めるこの病院は「最も神様が祈られる病院」と呼ばれている。 何故かこの病院に来る患者は皆、難病奇病重症患者が多い。頭が良くて勤勉な医者でさえ治せない患者を前に、私みたいな看護師は何も出来ない。私ってこの病院に必要なんだろうか。 そんなことを悩みながら日々の業務に追われている。 「ヨウ君、ツキコちゃん、入るよー。昨日はよく眠れた?朝ごはん持ってきたよー」 奥のベッドで横になるツキコちゃんも私じゃどうもできない一人。 「今日はシャケでーす!おいしーよ」 「シャケかー。ボク納豆がよかったなー」 手前のベッドのヨウ君は今日も早起き。もうすでに机を片付けて朝食の準備をしてくれている。 「それは今度のお楽しみね。ほら、ツキコちゃんも朝ごはん食べよ?」 カーテンを開けると朝日が差し込んできた。その光を浴びながら一瞥もすることなく、ツキコちゃんは黙って天井を見つめたまま。 「……私はいい」 「だめよーツキコちゃん。朝ごはんはしっかり食べないと」 返事は返ってこなかった。ツキコちゃんはいつもこういう感じで心を開いてくれない。 「看護師さんのいうとおりだよ。ツキコちゃん、いっぱい食べなきゃ治らないよ?」 「おっ、ヨウ君偉いねー」 「へへっ、ボクはツキコちゃんより『ニューイン』のセンパイだからね」 ヨウ君は今年6歳になる男の子、脳の病気で約一年ほど入院している。 毎日辛くて痛いはずなのによく笑うとてもいい子。 「ボクも美味しくないこれ我慢して食べるんだから」 「こらー、ヨウ君!この朝ごはん美味しいでしょ?」 「美味しくないよー。特に味噌汁なんて最悪!これ味噌汁じゃないよ、ただのお湯じゃん」 「味噌汁ですー!」 「ふふっ」 私とヨウ君のやりとりを聞いてツキコちゃんは小さく笑った。 少しづつだけどツキコちゃんは笑う子になってきた。ヨウ君の影響が大きいんだろうな。 「さ、ツキコちゃん。一緒にいただきますしよ」 「……うん、ヨウがそういうなら少しだけ食べる」 ツキコちゃんにとってこの入院は散々だろうけど、ヨウ君と同じ部屋になったのは数少ない幸運じゃないかな。 「じゃあ看護師さんは仕事に戻るから!あとで食器取りにくるね」  ツキコちゃんはヨウ君のおかげで少しずつ笑顔になっている。 でも、心からは笑っていない気がする。まだ傷が癒えないんだろう。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加