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私が勤めるこの病院は「最も神様が祈られる病院」と呼ばれている。
何故かこの病院に来る患者は皆、難病奇病重症患者が多い。頭が良くて勤勉な医者でさえ治せない患者を前に、私みたいな看護師は何も出来ない。私ってこの病院に必要なんだろうか。
そんなことを悩みながら日々の業務に追われている。
「ヨウ君、ツキコちゃん、入るよー。昨日はよく眠れた?朝ごはん持ってきたよー」
奥のベッドで横になるツキコちゃんも私じゃどうもできない一人。
「今日はシャケでーす!おいしーよ」
「シャケかー。ボク納豆がよかったなー」
手前のベッドのヨウ君は今日も早起き。もうすでに机を片付けて朝食の準備をしてくれている。
「それは今度のお楽しみね。ほら、ツキコちゃんも朝ごはん食べよ?」
カーテンを開けると朝日が差し込んできた。その光を浴びながら一瞥もすることなく、ツキコちゃんは黙って天井を見つめたまま。
「……私はいい」
「だめよーツキコちゃん。朝ごはんはしっかり食べないと」
返事は返ってこなかった。ツキコちゃんはいつもこういう感じで心を開いてくれない。
「看護師さんのいうとおりだよ。ツキコちゃん、いっぱい食べなきゃ治らないよ?」
「おっ、ヨウ君偉いねー」
「へへっ、ボクはツキコちゃんより『ニューイン』のセンパイだからね」
ヨウ君は今年6歳になる男の子、脳の病気で約一年ほど入院している。
毎日辛くて痛いはずなのによく笑うとてもいい子。
「ボクも美味しくないこれ我慢して食べるんだから」
「こらー、ヨウ君!この朝ごはん美味しいでしょ?」
「美味しくないよー。特に味噌汁なんて最悪!これ味噌汁じゃないよ、ただのお湯じゃん」
「味噌汁ですー!」
「ふふっ」
私とヨウ君のやりとりを聞いてツキコちゃんは小さく笑った。
少しづつだけどツキコちゃんは笑う子になってきた。ヨウ君の影響が大きいんだろうな。
「さ、ツキコちゃん。一緒にいただきますしよ」
「……うん、ヨウがそういうなら少しだけ食べる」
ツキコちゃんにとってこの入院は散々だろうけど、ヨウ君と同じ部屋になったのは数少ない幸運じゃないかな。
「じゃあ看護師さんは仕事に戻るから!あとで食器取りにくるね」
ツキコちゃんはヨウ君のおかげで少しずつ笑顔になっている。
でも、心からは笑っていない気がする。まだ傷が癒えないんだろう。
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