今宵を星の降る夜に

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大見得を切った過去の自分を思い出して恥ずかしくなる。おかげで事務作業が全然進まない。 この1週間、なんの成果もなしとはなぁ。 ツキコちゃんには何度も話しかけたけど特になにも教えてくれず、最近では普通の会話すらぎこちない始末。 「はぁ」 「ため息つかないのっ」 「ひゃっ」 首に刺さるような冷たさが走った。思わず身をよじる。 「ずいぶん可愛い声が出るのね」 振り返ると両手に缶コーヒーを持った土屋先輩がニヤニヤしていた。 「なにするんですかっ!」 「だって手が止まってるもん」 先輩が指差す方向には私の未処理仕事が積まれていた。 「ていうか最近気緩みすぎ」 土屋先輩はいつも通り笑顔だった。でも声は少し低い。やばい、怒っている 「あと笑顔。最近硬いよ」 「す、すみません!」 慌てて口角を上げる私。土屋先輩はそんな私を見て溜息をついた。 「ねぇ、星野さん。私たち看護師が笑顔でいなきゃいけない理由、わかる?」 「それはその、患者さんに不安を与えないように、です」 「うん、それも正しい。でもね、一番は私たち看護師が不安に飲み込まれないように、よ」 「え?」 「私はここが長いから……ううん、ここじゃなくても人の命に関わる現場で不安を感じない人なんていないのよ」 私が貴女ぐらいの年齢の時は不安で毎日泣いていたわよ、と土屋先輩は笑いながら付け足した。 「貴女が患者さんを診ているように、患者さんだって貴女を観てるの。そんな貴女が不安や焦りを抱えたままじゃ、患者さんだって安心できない。だからこそ私たち看護師はまず笑顔になるの。自分の中にある不安や恐怖や虚無感を追いやって、それで患者さんの前に立つの」 最近の自分の振る舞いを思い返す。私はちゃんとツキコちゃん自身を気にしていただろうか。 自分の聞きたいことだけを優先し、『患者さんに観られている』という、当たり前だけど大切なことを私はすっかり忘れていた。 「さ、これ飲んだら行ってきなさい。今日もあの子のとこに行くんでしょ」 土屋先輩は缶コーヒーを机の上に置いて、肩を2、3回優しく叩いて私を送り出してくれた。 私に欠けていたことを身をもって教えてもらった気がした。
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