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「なるほど、天体観測ですか」
「ええ、どうやらお父様と生前約束していたそうで」
その日の夕方、今度は私から木村先生を捕まえてツキコちゃんの話を始めた。
「星野さん、ありがとうございます。なんとお礼を言えばいいか」
「いえ、大変なのはこれからです。私ツキコちゃんと約束したんです、絶対連れて行くって。だから頑張らないと」
現実問題、すぐにはツキコちゃんを星空の下へ連れて行くことはできない。
安全の確保、体調管理、外出許可、担当主治医の説得……なんせ課題は山積みだ。
「これでやることははっきりしましたね」
「ええ、課題はたくさんありますが」
「ではまず、今から外出許可をもらいにいきましょう」
「ええ、そうでーー今から?」
「はい。早いに越したことはありませんから」
「ちょ、ちょっと待ってください!木村先生、いつ天体観測するつもりですか」
「まぁこの時間ですから今日は厳しいですかね」
「明日ですか!?」
私の声がナースステーション内に響く。木村先生は大声にビックリして目を丸くしていた。いや、あんたが驚かされた顔をしないでよ。
「場所とかまだ全然……」
「ほら、この病院無駄にでかいでしょ。ここの屋上とかいいんじゃないんですかね」
「で、でも屋上は基本立ち入り禁止なはずじゃ」
「基本、ですよね。こういう時のためにあるんですよ、特例って言葉は」
「そもそも外出許可だって……」
「大丈夫です、私担当医からも院長からも信頼が厚いので」
じゃあさっそく一緒に行きましょうと木村先生はツカツカ歩き出した。手際が良いなんてもんじゃない。
そうだった、この人めっちゃ仕事できる人だった。
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