第三章 50センチ

1/1
前へ
/4ページ
次へ

第三章 50センチ

 帰る途中、コンビニに寄った。  バイクを駐車場に停めると、ヘルメットを外して入店する。  何を買おうかな。  淘汰山を登る前に軽く食べてきたが、いろいろあって腹が減ってしまった。  時刻は二時を回っていて、胃がもたれそうだったが、がっつりと食べたい気分だった。  カツカレーと牛丼……。どうしよっかな。  あ、彼女はどうするのかな。 「お腹、すいてたりする?」 「大丈夫なんだね。わかった。何か飲みたいのある?」 「オレンジジュースが好きなんだね。俺がおごるよ。心配しないで」  純平は、かごの中に、牛丼とオレンジジュースの缶二本を入れた。  レジに向かうと、俺を見る店員の目つきが変である。視線の先に目を向けると、自身が着ていた白い半袖Tシャツが、元の色がなくなるほど真っ赤に染まっていた。  暗くてわからず、こんなにも出血していたとは思わなかった。  誤解されて警察に通報されても嫌なので、金を払うと足早に店から出ていった。  停めたバイクへと向かう。 「俺の体にしっかりつかまっててね」  そう言うと、純平はバイクのアクセルを入れた。  寮に着くと、体がへとへとに疲れていた。  玄関でブーツを脱いで、そのまま畳の上に座り込む。  もちろん彼女も部屋に入れた。初めての場所だから、彼女はあちこち飛び回っている。うれしそうでよかった。  そうだ、学に感謝の連絡をしなくちゃな。   「やべっ! まじで願いかなった! 近々、俺の彼女を紹介するぜ!」    この内容で学にメールをした。三時ごろで、寝ているとは思うが、どうしても今すぐに連絡をしたかった。  食べる前に煙草が吸いたいな。 「煙草を吸ってもいいかな」  驚いたことに、彼女も煙草を吸っていたらしい。気が合うなと思った。  箱から一本取り出して口にくわえると、ライターの火であぶった。煙をゆっくりと吸い込んで、肺に届かせる。ほっとする。  灰皿の上に煙草を置いて、彼女に視線を向ける。こちらを見つめながら、畳から50センチほどの所を浮いていた。  目が合うと、彼女の頭部は畳と並行移動をしながら、こちらに近づいてくる。そして純平の唇に向かって、接吻をした。  突然だったので、あぐらの姿勢のまま後ろに倒れそうになるが、腹に力を入れてなんとか耐えた。  彼女の唇はとても柔らかく、冷たかった。  舌を差し込んでくるが、俺は抵抗はしない。  好きだ……。  純平は目を閉じて、彼女の頭部を両手でしっかりと包み込むと、笑みを浮かべながら、力無げに崩れ落ちていった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加