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第三章 50センチ
帰る途中、コンビニに寄った。
バイクを駐車場に停めると、ヘルメットを外して入店する。
何を買おうかな。
淘汰山を登る前に軽く食べてきたが、いろいろあって腹が減ってしまった。
時刻は二時を回っていて、胃がもたれそうだったが、がっつりと食べたい気分だった。
カツカレーと牛丼……。どうしよっかな。
あ、彼女はどうするのかな。
「お腹、すいてたりする?」
「大丈夫なんだね。わかった。何か飲みたいのある?」
「オレンジジュースが好きなんだね。俺がおごるよ。心配しないで」
純平は、かごの中に、牛丼とオレンジジュースの缶二本を入れた。
レジに向かうと、俺を見る店員の目つきが変である。視線の先に目を向けると、自身が着ていた白い半袖Tシャツが、元の色がなくなるほど真っ赤に染まっていた。
暗くてわからず、こんなにも出血していたとは思わなかった。
誤解されて警察に通報されても嫌なので、金を払うと足早に店から出ていった。
停めたバイクへと向かう。
「俺の体にしっかりつかまっててね」
そう言うと、純平はバイクのアクセルを入れた。
寮に着くと、体がへとへとに疲れていた。
玄関でブーツを脱いで、そのまま畳の上に座り込む。
もちろん彼女も部屋に入れた。初めての場所だから、彼女はあちこち飛び回っている。うれしそうでよかった。
そうだ、学に感謝の連絡をしなくちゃな。
「やべっ! まじで願いかなった! 近々、俺の彼女を紹介するぜ!」
この内容で学にメールをした。三時ごろで、寝ているとは思うが、どうしても今すぐに連絡をしたかった。
食べる前に煙草が吸いたいな。
「煙草を吸ってもいいかな」
驚いたことに、彼女も煙草を吸っていたらしい。気が合うなと思った。
箱から一本取り出して口にくわえると、ライターの火であぶった。煙をゆっくりと吸い込んで、肺に届かせる。ほっとする。
灰皿の上に煙草を置いて、彼女に視線を向ける。こちらを見つめながら、畳から50センチほどの所を浮いていた。
目が合うと、彼女の頭部は畳と並行移動をしながら、こちらに近づいてくる。そして純平の唇に向かって、接吻をした。
突然だったので、あぐらの姿勢のまま後ろに倒れそうになるが、腹に力を入れてなんとか耐えた。
彼女の唇はとても柔らかく、冷たかった。
舌を差し込んでくるが、俺は抵抗はしない。
好きだ……。
純平は目を閉じて、彼女の頭部を両手でしっかりと包み込むと、笑みを浮かべながら、力無げに崩れ落ちていった。
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