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第四章 煙草
部屋の中を、夕陽が染めている。
学は、椅子の上で両膝を抱えていた。昨日のことを酷く後悔をしている。
こんなことになるなら、展望台の話なんかしなきゃよかった。
数時間前のことだった。
警察官二人が訪ねてきて、純平の死を知らせてくれた。
朝方に車で通りかかった人が、大破したガードレールに気がつき、警察を呼んだらしい。警察官数名が到着すると、慎重に斜面を下りていく。黒いバイクが横転して目立っていたため、そこまで時間がかからず発見できたそうだ。
純平は、木とバイクに挟まれて、一瞬のことで苦しむ間もなく、圧迫死という不慮の死を遂げていた。
「純平君と最後に連絡を取ったのはいつだった?」
右側に立つ警察官が訊ねてきた。
「たしか、三時ごろにメールが来ました」
「やっぱり……」
そう言うと、顔色が変わった。
そのあとを、左側に立つ警察官が引き取る。
「純平君のポケットから、煙草、ライター、携帯が見つかったんだけど、その携帯の使用履歴を見たら、最後に連絡を取った相手が君だったんだ」
「あぁ、だから私に知らせてくれたんですね」
「まあ、それはいいんだけど……」
顔つきが暗くなった。
どうしたのだろう。
「実はね。純平君の死亡解剖の結果、死亡推定時刻から考えると、君には連絡できないんだ」
「えっ?」
「その時間には、もう既に亡くなっていたんだよ」
警察官二人とも表情がこわばっていた。
そのあと、このことには一切触れず、純平との関係を聞かれるだけで、足早に出ていった。
夕陽が部屋の中を真っ赤に染めている。
椅子の上で両膝を抱えた格好のままでいた。
あのメールはあの世から届いたものだった。
純平の言う彼女って、いったいどこの誰なのだろう。
得体の知れない彼女のことを考えるだけで、鳥肌が立った。
翌朝。
学は、淘汰山をロードバイクで走り抜けていた。背中にしょったリュックの口から、途中で立ち寄った、花屋で買った花束の先が見えている。
ガードレールが引きちぎれていて、純平の事故現場はすぐわかった。よほどのスピードが出ていたんだと思う。
そばにロードバイクを停めると、リュックから花束を取り出す。しゃがんでそっと地面に置いた。
「煙草も置いていくよ」
純平が好んで吸っていた、赤のラインが入った煙草の箱を、花束の隣に置く。
学は、成仏を願って、手を合わせた。
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