喫茶待合室

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喫茶待合室

 恋人が死んだ。  彼――悠太はつきあってからも敬語を使い続けるようなちょっと変わった人で、たまにくだけた口調になるところが好きだった。夏海さん、と私の名前を呼んで、優しく笑うところが好きだった。  私の誕生日もつきあった記念日も忘れないような几帳面な人だった。私は人見知りのくせに大雑把でガサツで、つきあった日なんて覚えていられなかったけれど、記念日になるたびにこれからもずっと一緒にいてください、と真面目な顔をして言う彼が大好きだった。  ふたりで映画を観るのが好きだった。彼は同い年で、大学院に通っていた。仕事帰りに映画を観るのが好きな私は、映画館で彼と出会った。彼は「話というより、夜空一面に星の降るシーンが好きなんです」と少し恥ずかしそうに言った。私もそのシーンが好きだったから、話が盛り上がり、次第に仲良くなっていったのだ。  彼は星を見るのが好きだった。  卒業後は天文台に勤めて、宇宙の研究をしながら新しい星を見つけるのが夢なんだと、秘密を共有するみたいにそっと教えてくれた。見つけたら僕の名前をつけるのだと彼が真剣に言うから、私はくすくすと笑った。  流星群を見に行こうという話になったのはつい先月のことだった。私も行くはずだったのだが、たまたま体調が悪くなってしまい、断ったのだ。体調が悪くなってしまったのは本当だが、無理をすれば行けたような気もする。そんなに無理をしなくても、見える景色は私の好きな映画のワンシーンとたいして変わらないだろうと思っていたのだ。  その日、そこで彼は事故にあい、命を落とした。  彼の夢の話を、私は普段話半分で聞いていたけれど、たくさんの流れ星を見るときは、彼が新しい星を見つけられますようにとお願いするつもりだった。
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