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奔れ慎太郎
「どいでだ!」
男は怒りを隠せず、土佐弁で大男に詰め寄った。
男は怒ると餓えた虎のような眼光になり、大きな口で咆哮するようにまくし立てるので、どのような強者であっても舌を巻いてしまう。
男の名は、中岡慎太郎、土佐浪人であるが早い段階から長州に身を置き、物の考え方からすると長州人に近く、長州亡命浪人といえる。
普段は当時長州志士の間で喋られるようになっていた相手を「君」自分を「僕」といった後の明治期に知識人や文豪などが好んで使った言語にちかい言葉で喋っていたのだが、いざ頭に血が上ると、お国の土佐弁が出てしまうのである。
「どいでアンタら薩人はそうも意見をすぐに覆すがよ」
詰め寄られている相手の大男は、西郷隆盛である。 西郷はあまり饒舌な男ではないが、まとっている気迫で相手を言い含めてしまうような、底知れない度量のある男なのだが、この時ばかりは中岡の殺気と気概に押される一方であった。
「じゃっどん・・・ついさっき、大久保さぁから手紙が届きもしてぇ」
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