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03:ゲイル・ウインドワードの三十秒
宣言して、『エアリエル』に潜る。先ほどよりも、ずっと深く。頭のてっぺんから爪先まで、俺自身が丸々『エアリエル』そのものへと作りかわるような感覚と共に。
一息で、霧を、裂く。
俺の狙いに気づいたのだろう、速度を上げて上昇しかけた戦闘艇の姿を目に焼き付けたまま、彼我の距離はあっけなく消し飛び、戦闘艇の上方に陣取る。
何も、本当に距離が「消し飛んだ」わけじゃない。滞空状態から、瞬間的に加速しただけだ。
俺の愛機、翅翼艇第五番『エアリエル』の真髄は、個性豊かな他の翅翼艇とは違い、ごくごく単純な高速機動。単純だからこそ誰よりも速く飛べる。そういうことだ。
『……っ』
戦闘艇の操縦士は、何か、気の効いたことを言おうとしたのかもしれない。魂魄にノイズのような意識が混ざりこむ。
だが。
「つまんねーんだよ、お前」
俺は、そんな、お手本通りの飛び方の奴と遊びたいわけじゃない。
何とかこちらの射程から逃げようと船体を捻らせる戦闘艇に照準を定め、意識の中で弓を引く。それだけで、『エアリエル』は俺の意を汲んで唯一の武装を構えてみせる。
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