03:ゲイル・ウインドワードの三十秒

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 記術(スクリプト)型演算式砲台『ゼファー』。照準を合わせた標的に向けて、魄霧から生成した熱線を放つ、典型的な記術(スクリプト)型砲台だ。記術(スクリプト)型という性質上、魄霧の中を飛ぶ限り弾数は無限。反面、物理弾のような破壊力はなく、熱が周囲の魄霧に散らされる都合射程も短い。高速で動く『エアリエル』にとっては「連射は利くが針並みの火力の近接格闘武器」と言っても過言ではない。  それでも。 「じゃあな」  ほとんど鼻先が触れるくらいにまで踏み込めるなら、どうってことはないのだ。  矢を放つイメージと同時に『エアリエル』から射出された青白い熱線は、狙い違わず戦闘艇の操縦席をぶち抜いた――ということを魂魄の片隅で認識すると同時に、更に飛行翅を羽ばたかせる。  目指すは、基地の監視海域から今まさに脱出しようとしていた、偵察艇だ。 『ひ……っ』  喉を引きつらせるような、緊張と恐怖の感情が、通信として魂魄に流れ込んでくる。それはそうだろうよ、どれだけ必死に逃げたところで、『エアリエル』から見れば陸の亀と同然だ。その性能差は、ごくごく単純なものだからこそ、向こうさんもばっちり理解しちまったんだろう。
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