03:ゲイル・ウインドワードの三十秒

3/10
前へ
/379ページ
次へ
 ――逃げ切れない、と。  偵察艇は、身の軽さを生かして速度を殺さないまま旋回し、こちらに機銃の銃口を向ける。逃れられないとわかった以上、緊急用の武装を使ってでも、せめて一矢報いようというのだろう。  確かに『エアリエル』は他の翅翼艇と比べても、それどころか一般的な戦闘艇と比べても圧倒的に装甲が薄く、脆い。ついでに鞘翅を持たず、飛行翅を発生させる機関が剥き出しである以上、貧弱な機銃の一撃でも、まともに喰らえばあっさり墜ちる。  とはいえ、それは、あくまで「攻撃が当たれば」という話であって。  機銃の銃口を睨んだまま、更に加速。周囲の霧を喰らう『エアリエル』の駆動音の咆哮が響き渡る。もっとだ、もっと速く。そう求めているようにも聞こえて、ほとんど無意識に笑い声が漏れた。  もっと速く。もっと遠く。誰の手も届かないように。戦いの海にいたころに、何度も繰り返した言葉を、もう一度だけ繰り返して。  俺は、偵察艇の機銃の射程に飛び込む。飛び込むだけではなく、そのまま、こちらに向かってくる偵察艇に向けて飛び続ける。高さも方向もぴったり合わせたまま、真っ直ぐに。ただ、真っ直ぐに。
/379ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加