03:ゲイル・ウインドワードの三十秒

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 意識の奥底で、今もなお俺を掴んで離そうとしない、夢見るような横顔。明るく輝く瞳。その視線の先にあった青いカンヴァス。その向こうの、青い空。  何もかもが今はもう、ここにはない。どこにも、ない。  わかりきっているはずなのに、俺は、まだ。  ――やめろって、言ってんだろ! 「沈めよ。二度と戻ってくんな!」  無理やり、意識にまとわりつくものを振り払って、熱線を連射する。今度こそ、操縦席までを撃ち抜かれた偵察艇は、叫び声一つ残さず霧の海に飲まれ、そのまま反応が消えた。  辺りに残されたのが味方の船だけであることを確認して、速度を落として旋回し、『エアリエル』との同調を緩める。水面に浮かび上がるような感覚と同時に、自分の体のどうしようもない重さを思い出して、鈍い頭痛を覚える。  一つ舌打ちして、思い出しかけてしまったあれこれを頭の奥底へと押し戻す。  どうか忘れさせてくれ、オズ。お前はもう、どこにもいないんだから。  自分自身に言い聞かせていると、低層に浮かぶ輸送艇から通信が入ってきた。 『流石は我が国を幾度となく救ってきた英雄殿。見事です』  見事、か。
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