01:ゆめの青空

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 瞼を開けば、目の前に広がっているのは、白。  魄霧(はくむ)の海。魂魄界から物質界に流れ出す微細な粒子に覆われ、耳が痛くなるほどの静寂に包まれた純白の世界がそこにある。  右も左も、それどころか上下すらも曖昧な霧の中、俺はたゆたう鋼鉄の船に身を預けている。シートに横たわる肉体を外側から眺めているような感覚は、重たい体に囚われた陸の上よりもずっと気が楽だ。  視界を覆う探知網に異常なし。今日も至って平和なもんだ。退屈と言い換えてもいい。  だからだろうか、遠い日の記憶を思い出してしまったのは。  ――青。  それは、あの日カンヴァスに広がっていた色の名前だ。  あの頃のことは、思い出すこともないと思っていた。思い出したところで、二度と戻ってはこない。この船には俺一人しか乗り合わせていない。もう一つの席は、空っぽのまま、沈黙している。  だから、青いカンヴァスが増えることも、もう、ない。 「……つまらねえな」  思ったよりも、嗄れた声が喉から漏れた。案外長い時間眠っていたのかもしれない。我らが司令に「船の中で寝るなんて霧航士(ミストノート)失格よ」とかなんとか怒られそうだが『エアリエル』は俺が眠ってようが何だろうが、俺を振り落とすことはない。
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