02:青色の声

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『レディバード』。  天道虫(レディバード)という雑な名前の通り、丸い真っ赤な船体に透き通った飛行翅を覆う、これまた赤い鞘翅が特徴の、量産型翅翼艇(エリトラ)だ。俺が訓練生時代に散々乗せられた、因縁の船でもある。 「こりゃまた、随分懐かしい船が出たな」  つい、舌打ちと一緒に独り言が口をついて出るのは、悲しい条件反射のようなもんだ。魂魄回線を開いてなきゃ誰にも聞かれないのだから、構うことでもないんだが。  ただ、俺はあんな飛び方をする『レディバード』を知らない。翅翼艇(エリトラ)の飛行翅を自在に操るには、ある程度の技術と、それ以上の同調適性が要る。新米霧航士(ミストノート)の訓練艇でもある『レディバード』は適性の制約がゆるく設定されているが、反面操縦性能はすこぶる悪い。そんな『レディバード』を、風も重力も感じさせず舞うように操る霧航士(ミストノート)なんて、俺は知らない。  そう、一人しか、知らない。  先ほど響いた「青い」声も、きっと、あの『レディバード』に乗る霧航士(ミストノート)だ、と。気づいた途端、激しい喉の渇きと、胸の鼓動が跳ね上がるのを感じた。『エアリエル』が俺の異常を察して警告を投げかけてくる。
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