ラブ定額

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ラブ定額

 携帯電話が鳴り響く。  着信を報せるメロディーが、強かに彼女を誘う。  開いた画面に光る名前に彼女は溜め息を零す。  『ごめん』  素っ気無く、さり気なく、それでいて淡泊な一文に彼女は失笑する。  暗い部屋。  画面に映り込む自分の表情が少しだけ歪んでいる。  なんて醜い顔なんだろうか。と彼女は涙で擦れた瞳を拭いながら決別のメールを綴った。  『さようなら』  今までの関係を清算するには余りにも軽薄な言葉に彼女は、こんなものか?と笑った。  清々した。  そんな感想が脳裏に浮かぶ。  だけど、涙が零れる。  メールなんて嫌いだ。と過去の自分を侮蔑し、決別するように、決心を彼女は口にする。  登録してある彼のアドレスに、その最後のメールを送り返した彼女は送信のフラッシュを見届ける。  便箋が封筒に、封筒が鳥へと姿を変えて羽ばたいてく動画の最後に鳴り響く完了と云う二文字。  零れた溜め息。  寿命が少し縮んだような気がした。  心が少しだけ欠けたような気もした。  だけど、彼女は携帯電話を手放せない。  「・・・・・・・ラブ定額って、私だけで解約できるのかな?」  抱えた膝の上に顎を乗せる。  送信済みのメールの項目に保存されている決別のメールと 、最後のメール。  『私、彼女で良いんだよね?なんで好きって云ってくれないの?』  ただ恋人である安心と自信が欲しかった。  遊ばれていないと云う自負が欲しかった。  だけど、最後のメールの返信はなかった。  漸く届いたのは謝罪の言葉。  何故、どうして?と彼女は自問した。  嘘でも良かったのに、好きだと言ってくれない彼の生真面目さに泣きたくなった。  優しい嘘でも良かった。  でも、本当は温もりが欲しかった。  不確かな言葉よりも、確かな証が欲しかった。  傷でも良かったのに、彼は抱きもしなかった。  嫌われていると思った。  こんなにも醜い自分を好きだと言ってくれる人はいないんだ、と彼女は改めて気付かされた。  メールは嘘ばかり。  だから、何時も自分の期待と希望を跳ね返す。  鏡かもしれない。  だけど、こんなにも軽薄で、鋭い刃物もない。  「・・・・・・・・本当に好きだったのに」  彼女は呟き、閉じた携帯電話の電源を切り、ゴミ箱に放り投げた。
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