出会い

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出会い

暦は3月。まだ春と呼ぶには朝と夜は肌寒いが日中はそれなりに暖かく、昼寝をするには丁度いい季節だ。 「ふぁ〜······」   そんな陽気の中俺は、ビールの空き缶や酒のつまみが乱雑に散らばっている机に、そこだけ綺麗に整然と積み上げられた資料をしり目に、うたた寝へと洒落込もうとしていた。  何故俺がこんなクソ面倒な案件をしないといけないんだ。どこかの暇な警察にでもたらい回しにすればいい。うん、そうしよう  などと考えつつ、横になっているソファーの感触を確かめながら視線を天井に向けると、その天井への視線を遮るように見慣れた顔がそこにあった。 「司!何を寝ようとしてるんですか!」 「煩い黙れ。そして天に帰れ」 「私は地の神なので天には帰れません」  その見慣れた顔の正体とは、褐色の肌に赤み掛かった髪を耳下まで伸ばし、見るものの眼を離さないオーラを放つ。それは地の神、ゲブだった。  地の神ゲブはエジプト神話に出てくる一人。エジプト神話においてゲブの話はかなり有名であり、ヘリオポリス九神エネアドとして崇められている。  そんな神であるゲブが何故この現世に実体として存在し、俺と言い争っているのか。それはまたおいおい話そう。だってそんな事どうでもよくなるような可愛らしくも呆れた声が聞こえたからだ。
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