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対話
○対話
A) 「本当に何となくなんです」
B) 「何となくで人間が殺されて堪るかッ!!」
A) 「怒らないで下さい。だけど、それが一番しっくりくるんですからしょうがないでしょう。別に言い逃れをするつもりはありませんよ。罰は受けます。それだけの悪事を働いたのは事実ですから」
B) 「ふざけるなッ!!」
A) 「ふざけてませんよ」
B) 「ッんだと!?」
C) 「止めろ」
B) 「しかしッ―――・・・年端も行かない子供がひとり殺されたんですよッ!!感情的になりますよッ!!」
A) 「同い年のお子さんでも居るんですか?」
B) 「ッの飄々と!」
C) 「止めろ!!」
A) 「・・・・・――――警察の取調べって、若手の武闘派と、先輩の温厚派と併せた飴と鞭でやるんですね。何かテレビドラマの何たら純情派とかでしかやらない、伝統だと思ってましたよ」
C) 「それで得られた自白の証拠能力は低いんだよ。それに昨今はマスコミの目も厳しいし、マニュアルや教本も変わってるんだ。何れ法的にも規制が掛かるだろうよ」
A) 「透明化って奴ですか?」
C) 「人権の尊重を謳っていると云う方が適当だろうな」
B) 「こんな奴の人権を守って何になるって云うんですかッ」
C) 「だが、被害者も被疑者も、皮肉にも同じ人間なんだ」
A) 「・・・・・それで、僕はどうなるんですか?」
C) 「出来れば極刑を求める――――と云うのが被害者家族の希望だし、検事もそれを求刑するつもりらしいな」
A) 「死刑ですか――――」
B) 「何だ?急に怖くなったのか?」
A) 「・・・・・・怖くないと言えば嘘になりますが、当然の報いだと思います」
C) 「達観しているな」
A) 「生きている事に疎いんだと思います。僕と同世代には多いみたいですよ」
B) 「まるで他人事だな」
A) 「元来、生きるってのは他者を貪るものでしょう?多少なりとも命の重さには鈍感な所があると思いますよ。まぁ、一概に皆が皆そうだとは言いませんけど」
B) 「そんな事があって堪るかよ」
C) 「そうだな」
B) 「そうでしょ?」
C) 「お前じゃない、彼の発言に賛同しているだけだ」
B) 「ちょっとぉ!先輩もどうかしちゃったんですか?」
C) 「お前は人殺しが悪いと云うが、それは俺達が人だからだ。だが、別の生き物の命はどうだ?」
A) 「警察の人が良いんですか?そんな事を言って」
C) 「君が誘導したんだろ?ま、私自身もこっちの課に回されるまでは考えた事もなかった」
A) 「何をです?」
C) 「何故、人は人を殺すのかって事だ」
A) 「人だから殺すんだと思いますよ」
B) 「先輩ッ!何を言い出すんですかッ?!」
C) 「お前も少しは考えた事くらいはあるだろう?少なくとも、守る立場の人間が、守る者の大事さを知らずに、何を誇りにして、動機にしていけば良いんだ?」
B) 「自分は少なくとも正義感を持って、この仕事に従事しているつもりですッ!!」
A) 「熱血漢ですね」
B) 「黙れッ!!」
A) 「はいはい―――・・・・でも、大人の人でそんな事を真面目に話す人は初めてですよ」
C) 「少なくとも日常的にそれを話題にする人はいないな。それに許される立場でもない」
A) 「・・・・・・・・でも、話してますよ」
C) 「売り言葉に買い言葉・・・とだけ言っておこう」
A) 「――――まぁ、兎に角僕は何となく彼女を殺してしまったんです」
C) 「お前は黙ってろよ」
B) 「・・・・・わかってますよ」
A) 「実況見分でも言いましたけど、僕は偶々包丁を持っていました」
C) 「あぁ確認している。自宅の包丁の取っ手が壊れたそうだな」
A) 「はい。近所のデパートに行った序に百円ショップで肉切り包丁を買ったんです。偶々スーパーで肉が安かったもので。その帰り道ですよ、彼女を見たのは」
C) 「それで殺したのか?」
A) 「結果的にはそうですけど、明確な意思があった訳じゃないですよ。何度も言いますけど」
C) 「分かっている」
A) 「殺してしまおう。と云うよりは、何ですかね。どうなるんだろう?いや、違いますね。当然のような衝動ですね」
B) 「ッ―――衝動ォ!?」
A) 「・・・・・・・・・・目の前に羽虫がいたんですよ。それを払うみたいに、腕を振り上げて・・・・・血を吸う蚊を潰すみたいに、特に感慨もなく振り下ろしたんです」
B) 「蚊?人間をそんな虫とッ!!」
C) 「さっきの話を聞いていなかったのか?人間だからじゃない、人間も―――が本来は正しい」
B) 「記録されているんですよ?そんな軽はずみな・・・・持論を口にするのはお勧めできません」
C) 「私も確かめたい気持ちがあるんだよ。本質を、と云うべきか―――何だろうな」
A) 「人が人を殺す理由ですか」
C) 「違うな――・・・・・そうだな、理由はないだろう。君の言う通り、何となくで殺せるのが人だ。命の重さなんてモノが分かっていない。それが人なんだろう。だから、人とは何か?を理解するのがその抜本的な解決方法なのかもしれないな」
A) 「何か哲学してますね」
B) 「学校の講義じゃないんだ!俺はこんなの納得がいかない!!」
C) 「彼は容疑を全て認めている。国選の弁護士が自我を話題に出さなければ求刑は当然重くなる」
A) 「―――出来れば死刑にして欲しいですね。僕みたいの生かしておいてもメリットは少ないですよ。税金の無駄遣いかもしれませんね」
C) 「だが、君の希望は通らない。初犯に加えて、君の飄々とした態度では精神異常を勘繰るのが普通だ」
A) 「そうですか?喩えが悪いですけど、僕は殺す理由があった訳じゃないけど、殺せるだけの道具と、タイミングがあっただけですよ。あ、そうそうこう云うのって状況の力って言うんでしたっけ?環境が背中を押すって感じで」
C) 「現場が君を殺人犯にしたと言いたいのか?」
A) 「そんな映画がありましたね」
C) 「あれは実話が元になってる」
A) 「あぁ――そんなキャッチコピーでしたね」
B) 「・・・・・・幾ら先輩でも好い加減にして下さい!」
C) 「そうだな。悪かった」
A) 「――――でも、僕が死ねがそれで被害者家族の方は気が済むんですか?」
B) 「ッまえ!また、話をややこしくしてッ!!結局はテメェは予防線を張ってるんじゃねぇのか?!こうやって記録映像に自分の姿を映して!人格に問題があると見せるつもりなんだろッ?!」
A) 「そんなつもりはありません。ただ、死刑になっても無念は残るでしょ?死んだ人間が生き返る訳でもないし・・・・・アレですよ、復讐とか認めれば良いと思いませんか?」
B) 「――――お前、自分が何を言っているのか、分かってるのか?」
A) 「私刑ですか?地獄なんてないんだから、被害者家族の気持ちを晴らすならそれをさせるべきじゃないですか?」
C) 「それで被害者家族の気持ちが晴れると思っているのか?」
A) 「多分、自己満足みたいなモノは得られると思いますよ。きっと、虚しさに苛まれると思いますけど、復讐を認めてあげるんだから、そのくらいは覚悟しても良いんじゃないですか?」
B) 「お前は――――ッ何様のつもりだ?!」
A) 「・・・・・・・・・・神様なんて言ったらどうします?」
B) 「ッメェは狂ってるよ!」
A) 「――――冗談ですけど、権利で人を殺せる立場の人間がいるって可能性の喩えですよ。人殺しは良くないって皆バカみたいに口を揃えて言うけど、娯楽の何パーセントが人の命を粗末に扱ってます?ミステリーにしろ、サスペンスにしろ、結局人が死んでるのに、恰も万事解決って感じで終ってるのは何か腹立たしいと思いませんか?探偵が犯人を突き止めて、犯人がバカみたいに告白して・・・・。被害者の事なんて全然鑑みてないでしょ。単なる犯行の過程を推察する仕掛けに成り下がるんですよ被害者が。人権無視にも程があると。現実よりも娯楽の方が性質悪いと思いませんか?」
B) 「お前がッ!!」
A) 「怒るのは当然ですけど、人を殺したからと言って、法を盾にして、死刑と言い換えて、人を殺したって――・・・本質的には同じじゃないですか。戦争も大義があるだけで、大量殺戮でしょ。殺人を正当化しているだけ・・・・・あ、やっぱりアレですか。状況が人を殺させるって云うのはある意味本質を突いているかもしれませんね」
C) 「・・・・・・お前は結局何が言いたいんだ?」
A) 「う~ん、ま、それは良いでしょう。兎に角もう少し話しましょう」
B) 「俺は簡単にお前を殺せるんだぞ」
A) 「そうですね。人を殺すのに道具は関係ない。でも、絞殺は何かスマートじゃないですよね。あぁ――包丁で切るってのも綺麗じゃなかった」
C) 「・・・・お前はやっぱりどこか狂ってる」
A) 「それを口にするのはお勧めできませんね。僕が異常だと認めるようなものです。僕は出来るだけ理性的に振舞って、弁護士や検事、裁判官の怒りも買うつもりです。死刑が被害者家族にとって最善のモノだと言いませんけど、多少は報われると思いますから」
B) 「容疑は全面的に認めるんだな」
A) 「認めますよ。僕は何も否定するつもりはありませんから」
C) 「――――遺言か?」
A) 「あぁ良いですね。多分、それが近い。僕は死ぬつもりです。法と、被害者の私怨に従って殺されるつもりです。だけど、何かを残したいんでしょうね。人殺しの癖に生きた証を残したいんでしょうか?」
B) 「お前は何がしたいんだ?イライラしてくる・・・・・・・殴らない自分がほんッとに不思議だよッ」
A) 「殴らないのは、殴れない状況がここにあるからですよ。正義なんて結局は大衆の総意に従った、社会システムを滞りなく働かせる為の仕掛けでしょう?貴方の言った正義がどれほど高尚か知りませんが、僕はそう云った偽善を笑いたいんでしょうね」
B) 「好い加減にしろよッ!!」
A) 「ッ――――・・・・かッ、ダメですよ。横暴なそれ、じゃぁ、今までの僕の自白が無効化ですよ」
C) 「離してやれ」
B) 「・・・・お前、自分が死なないとでも思ってるんだろ?」
A) 「死にますよ。人間は皆死にますよ。遅いか早いか、それとも殺すか殺されるか・・・・・それに意味があるかないか―――の違いぐらいですかね」
C) 「詭弁はもう良い。頭が痛い。さっさと話せ」
A) 「――――・・・・人が人を殺すなんて、最低だ。だけど、それを楽しむ人間もいる。娯楽の上だとそれは認められる。人権の無視も許される。腹が立つ。矛盾している。それを説得する言葉もない。言い訳もしない。だから、僕は彼女を殺した」
C) 「――――――それが本当の動機か?」
B) 「本当の・・・・・・って、お前ッ!!」
A) 「・・・・えぇ、多分、主張したかったんだ。僕は人殺しだってね。人権を踏み躙った。けれど、動機はない。何となくだ。だから、ドラマみたいにバカな告白はない。言えるのは、事件の過程だけ。そもそも動機なんて、皆が僕の事件を理解したいだけでしょ?異常だ―――と差別したい。全くもって不毛な話ですよ。差別するくらいなら、多数決で断罪すれば良い。そもそもこの事件に議論するものなんでないんですから。犯人は自白。誤認は何一つない。裁判をする手間だって、ただ伝統に従って事実確認をしたいだけでしょ」
C) 「・・・・・・・お前は、死ぬべきだ」
A) 「と思いますよ。でも、娯楽じゃないってのは辛いですね。現実はこんな当然の疑問を口にしただけで、人格を疑われる」
B) 「なら、お前が死刑にならなかったら俺が殺してやるよ」
A) 「冗談にしては面白くないですね。出来れば、被害者家族の方に引き金を引かせて下さい」
C) 「―――なら、脱走でもするんだな」
A) 「それこそエンターテイメントっぽいですね」
B) 「お前は、自分の子供を殺したと云う自覚があるのか?」
A) 「・・・・・・・・自分の子供だって、他人でしょ?」
警察官二人が、事情聴取を行なってた犯人を撲殺した。と新聞で報道されてから間もなく、逃走していたその警察官二人は出頭。その後、裁判が行なわれ、二人には無期懲役が言い渡された。
(完)
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