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3.
部活が休みだったあの日、僕はいつもより早く帰宅することに胸を弾ませていた。久しぶりの自由時間をどう使おうか嬉々として考えていた。
部活は好きだった。だけど、結果が出せない苛立ちも抱えていた。
そんな下校時、僕は初めて彼女を見かけた。
尻餅を付き制服を泥だらけにした女子生徒。彼女を突き飛ばした女子生徒とその友達は笑っていた。
僕はその光景を目の当たりにして足を止めた。友達は厄介ごとに首を突っ込まない方が良いと言い足を止める事は無かった。
いじめなんてどこにでもある事。日常茶飯事行われている事。こんな人が通る所で行われるいじめなど、大した怪我を負う事もないのだろう。じゃれ合っていると言われてしまえばそれで終いの話だった。
皆が目を瞑り知らないふりをした。それは生きていく上で正しい選択だったのだろう。大人になったからこそ思う。ある程度の事に目を瞑るのは必要なスキルなのだと。そうしないと自身を守れないのだと。友達や多くの生徒は高校生ながらそのスキルを身に付けていた。賢明な判断をした。
だけど僕は目を瞑れなかった。賢明な判断が出来なかった。僕は彼女等の方へ足を踏み出していた。
「何をしているの?」
そう、声を掛けてしまった。
尻餅を付いた女子生徒を見下ろしていたグループは僕を見るなり怪訝な顔をして、シラケた、と言い去っていった。僕は彼女等の背中をただ見つめた。
彼女等が去った後尻餅を付き地面に座り込んだままの女子生徒に手を差し伸べた。彼女は僕の手を取ることなく立ち上がると、土ぼこりを払い鞄を手に取り、僕など居ないかのように過ぎ去っていったのだ。
「なんだあれ。礼くらい言えよな」
僕よりも怒ったような顔で近づいてきた友達はそう呟き、僕は彼に困った笑みを向けた。
後日知った事だが彼女は六宮梨維さんと言うそうだ。先日隣のクラスに転校生として現れた彼女は一言で表すと暗い。
この世の全ての不幸を自分が背負っている、みたいな不幸なオーラを醸し出している。クラスにも溶け込んでいないようで、いじめの標的にされるのも理解出来てしまった。
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