みんな生きている。

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みんな生きている。

彼はぼんやりとどこか遠くへ目を馳せながら、話を続ける。 「それでまぁ、休職した仕事も辞めて、通院を続けて。 ある時担当医に、生活訓練を勧められたんで、ちょっと見学行ってみて。 プログラムが充実していることが魅力的だったんで、それであっさり通所を決めた感じですかね」 確かに私たちが通う事業所はプログラムが充実している。 なので事務仕事で必要な一通りのパソコン操作を学びたい人や調理実習をしたい人、手作りの雑貨やクッキーを作って販売したい人にとっては、私たちの通所している事業所はお薦めかもしれない。 「事業所通所を通じてこの年齢ながらにして、料理の楽しさを知りましたよ。 俺、自分で料理なんてろくにしたことなかったですから。 それにみんなのそれぞれの特技も知ることもできましたし、色んな話を聞く上で色んな人生があるんだってことを、改めて知ったりして。 世界観広がりましたね、改めて」 私たちは様々な理由で一般的な就労が困難となり、それぞれがこれまで様々な場所で苦しんできた、悩んできた。 けれども手探りでも前に進みたい、改善したいという気持ちから(恐らくは)、それぞれの理由で事業所への通所を決断したのだろう。 だからきっと私たちは、もともと人間不信だったり(私がその典型だけど)、あるいは何らかの理由で人間不信かそれに近い状態になった人も、 一般的な集まりの場よりはパーセンテージ率が高いと思う。 けれどもその割には打ち解けるのが早いのはきっと、皆それぞれ様々な理由でここにきているんだろうけど、 「改善したい」「交流したい」「前進したい」「居場所が欲しい」などといった気持ちが皆、どこかしらにあるから、なのかもしれない。 ここにいる4人は、事業所の中でも特に仲の良いメンバーで、なぜか偶然に(それとも必然的に)親しくなった。 それで一人暮らしをしていた私がどういうわけか、話の流れで、 「今度うちに集まらない?」 なんて声をかけてしまったのだ(このようなことは私の記憶にある限り、人生初の経験なのだが)。 たちはそれぞれが違った場所で違った経験をして、それぞれ悩んだけれど、だからこそ今、ここにいる。 そして今、みんな生きている。困難もあるけれど、みんな生きている。 私はきっと、もうひとりじゃない。それがこんな心強いものだったなんて。 「みんな、事業所卒業してもずっと仲良くしようね!」 青葉さんが言い、みんな笑顔で頷いた。 THE END
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