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赤茶髪の女の話
「私の場合はね......どこから言おうかな」
上田さんは赤茶色のウエーブがかった髪を右手の人差し指でくるくるくるっとしながら、ぼんやり話始める。
「私の場合はね......
言っちゃうと私、すごい家族大好きだったの......ってもちろん今も大好きだよ?
それがある日突然、お父さんが亡くなっちゃったの。
周りの友達に言うと、たまにびっくりされたんだけど、私、特にお父さんっ子だったし、お父さんと友達みたいな間柄だったんだよね。
特にお父さんのことは突然のことだったから、本当、凹んだし、しばらく眠れなかった。
その1か月後に可愛がってた猫ちゃんも亡くなっちゃって。
更におばあちゃん......お父さんのお母さんが自殺しちゃったんだよね。
息子が自分より先立ってしまって…想像を絶する悲しみに包まれたんだと思う、けど……
正直、あんな辛いことは私の人生の中でなかったし、これから先もないと思うレベルで。
本当に本当に凹んで、仕事もしばらく休職したの。
そんな中。引っ越すことになった。
お父さんもいないのにこれまでの所に住んでいるのは、経済的にも精神的にもきついし、手ごろな部屋でも借りて郊外に引っ込そう、って話になったの。
だけど私は仕事もあるし、復職したらまた仕事行かなきゃだし、引っ越し先によっては長時間通勤になるから、このままこれまでいた街に残ることにしたの。
それで何とか借りられそうな所を取り敢えず借りて、人生初の一人暮らしをした。
ただひとり暮らしを始めると、これまで気にならなかったことが気になり始めて、ね。
家を出るときに鍵は閉めたかな?万が一鍵が外れたら泥棒に入られちゃう!って、何度もドアノブをガチャガチャ回したの。
10回以上確認しても納得できなくて、何度も途中で家まで戻ってドアノブが開かないか確認もした。
鍵閉めてても、窓が開いていて誰かが入ってくるんじゃないか、とか、
ガスの元栓が開いているんじゃないか、ガスコンロが付きっぱなしなんじゃないか、エアコンがつけっぱなしなんじゃないか、とか。
とにかくいろんなことが気になり始めてはキリが無くなって、復職してもそれは変わらなくて、やがて仕事もまた行けなくなって辞めちゃって。
他にも部屋の水道や換気扇から変なにおいがするとか、ユニットバスのお風呂やトイレが汚く感じて、毎日洗ってトイレに座る時はいつもトイレットペーパーを敷くようになって。
外出先でそれが余計顕著になって、デパートやスーパーのトイレなんて、拭いてからトイレットペーパー敷かないと利用できなくなって。
やがてそれもできなくなった。
その頃は、家を出たら知らない人がいて押し入って来たらどうしよう、なんてことが気になっていて。
それで、むやみに出かけられなくなって、引きこもりみたいになったの。
買い物時にレジの人とお金の受け渡しすることも嫌、不特定多数が触った商品を購入するのも嫌。
ネットショップで買っても宅配便の人の手が汚いんじゃないか気になるし、梱包時にどんな人が触ったのか気になるし。
そもそも宅配便の人のふりをした押し入り強盗ならどうしよう、変なことされたらどうしよう、そんなことばかり考えて。
自分が汚いものを知らないうちに触ってしまった気がしていて。
常に部屋を拭いては洗濯機を回してタオルや衣類を洗って、手も常に洗って、手がぼろぼろになって。
そんな私を心配して、お母さんに一緒に暮らすよういわれて、一人暮らしをやめて、お母さんと妹が生活しているこの街に越してきたんだ。
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