流星アプリ

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 満面の笑みだ。  両手にそれぞれ握りしめられた缶コーヒーが、ぐいと差し出されている。 「なにこれ、くれるの?」 「うん、あげる」 「なんかあった? 相談事?」 「当たったんだ、いいでしょ」  そこで、と自販機を顎で指して、ことはが胸を張った。  大学の敷地内に設置された自販機だ。 「すごい。あれ当たるんだね、本当に都市伝説だと思ってた」  当たり付きではあるけれど、先輩後輩友人含めて、当たったという話をただの一度も聞いたことがない。  ある意味幻の自販機と、缶コーヒーをしげしげと見比べて、隣のなほが唸る。 「あれ、でもさ。ことはのがそれで、これが当たったんだとすると、はやせの分は本当におごりってこと?」  なほが、私の手の中におさまったもう一本をちらりと見て言った。 「アタリが出たお祝いって感じ? それなら私、普通に払うよ」  お財布を取り出しかけた私を制して、ことはがさらに胸を張る。  背が低いので、胸を張るというよりふんぞりかえった感じになっている。 「大丈夫。ふたつとも当たったから。買ったのは私の分だけ」 「え、二本当たったってこと?」 「そうだよ。なほのが私の分のアタリで、はやせのがアタリの分のアタリ」  アタリの分のアタリ。  ただでさえ都市伝説の自販機なのに、一本で三本も手に入るだなんて。 「言いにくいんだけど、これ、一本は最初から自販機の取り出し口にあったやつとかじゃないよね?」  ネットの記事か何かで読んだ、毒入りコーヒーの話を思い出す。 「失礼な」 「ごめんって。でもさ」 「強いて言うなら、お願い事をしたからかな」 「はあ?」「なにそれ」  ことはの話が急に明後日の方を向いたので、聞き返す声がなほと重なった。 「昨日の夜にね、流れ星にお願いしたんだよ」  これ以上ふんぞりかえったら、後ろに倒れてしまうのではないか。  興奮気味のことはを前に、私となほは顔を見合わせて苦笑した。
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