ブラックチェリーは春だけですが

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   6月下旬の土曜日。事件は起こった。  空はどんよりとしていたが、その日も彼は現れた。  番号モニターに映る『23』を見つけると、率先して私はオーダーを取りに行く。  彼はいつもと変わらないシンプルな服装でノートパソコンを叩いていた。 「ご注文はお決まりですか?」 「ブラックチェリーパフェとコーヒーを1つください」  いつも通りのオーダー。  私は注文シートに記入しながら「よかった。彼は今日も元気みたい」なんて謎の安堵感を覚える。 「かしこまりました。少々お待ちください」   そして、小さくお辞儀をして厨房に戻ろうとしたその時。 「あの、砂糖とミルクなんですが」  彼の言葉に、私はそこではっとした。  もう知ってるから、とつい聞き忘れてしまったのだ。  慌てて私は注文シートを構えなおす。 「あ、すいません! 砂糖2つにミルク1つですよね!」 「え……」  私の言葉を聞いて、彼は驚いたようにその丸く綺麗な瞳を見開いた後。  その瞳を閉じるように、ゆっくりと嬉しそうに笑った。 「……はい、お願いします」  初めて見た彼の柔らかな笑顔に、私は見事にやられてしまって。  この二年間で初めて「かしこまりました」を忘れてしまった。
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