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「ねえ」
「なに」
「私ね、お母さんに料理を教わるのやめたんだ」
「あっそ」
「なんかね、男を捕まえるためには男の胃袋をつかめばいいって聞いたんだけど」
椎度は小走りで僕の前に立ちはだかった。
「もう握ってるから」
やばい、と思った。しかし、気づいた時にはもう遅い。椎度の手が携帯を操作していて。
ピンポーン
僕は両手で口元を押さえ込む。地面に膝をつき、俯きながら耐える。
だが、耐えきれずに吐き出してしまった。
涙目になりながら、最悪だ、と後悔する。
嗚咽もピンポンも止まらず、僕は彼女の大きな鞄の中に手のひらサイズのスイカを何個も吐き出した。
「よーし、よしよし」
スイカを吐いている最中、背中をさすってくれる。それは側からみれば彼女が座り込む僕を抱きしめるような形になっている。
ここはまだ通学路で当然下校中の生徒が多く通る道だ。そんな中で僕は彼女と抱き合っているように見えるだろう。
このことを母親は知らず、椎度だけが知っていた。
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