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序章
流浪の民、ロニアスは五十余年の放浪の末、バルドモス山の山裾の荒れ果てた台地を安住の地と定めた。
それから五十年以上にも及ぶ血の滲むような努力の末、やっと作物が実り、不安なく暮らせるようになった。
それからまた五十年余り、ある年の収穫祭の夜、村の長老の元に子供達が集まった。
その子供達に囲まれた長老の口から、長く言い伝えられてきた昔話が始る。
「遠い昔、今から三百年以上も前のことじゃったか・・
我らの祖先は、族長ロアンヌ一世の元、ローヌ川の河畔の豊饒な緑の草原の中に、一つの王国を築いた。
王の治世を聞きつけ、辺りの村々から人々が集まり、国は栄え、近隣の村々は、この国、ロマーヌに忠誠を誓った。」
「最初の百数十年は何事もなく過ぎ去った。
しかし、七代目の王インジュアスの代になると、役人は賄賂を好み、政治家は私腹を肥やすばかりで、国民を顧みないようになっていったのじゃ。」
「そのころ、山脈の北、ランドアナ高原に起きたカルドキア帝国の王ゴルディオスは、名ばかりの自由を唱え、邪教の力を背景にしたその強大な武力と魔力で、ロンバルギア平原に拡がる国々を次々と属国化していっておった。」
「ゴルディオスは、力でねじ伏せた国々に恐怖政治を敷き、人々に絶望を与え、暴力と圧政によって国を治めていた。」
「カルドキア帝国の力は山脈を越え、ついに中原の国モアドス王国に及んだ。国境を突破されたモアドスの王スメスタナは、その南の国、つまり我等の国ロマーヌに救援を求めてきたのじゃ。」
「インジュアス王は国中の兵を集め、モアドス王国を縦断し、北の国境へと向かった。
しかし、腐敗に慣れ、弱体化したインジュアスの軍は至る所で戦に敗れ、モアドス王国の首都モタリブスの陥落も間近となっていた。」
「その時、サントリュフトの丘に真っ青な炎を染め抜いた旗を掲げた一人の若者が現れた。その若者の後ろには真紅の鎧に身を包んだ三千の騎士が控えていた。」
「若者を先頭に三千の騎士は丘を駆け下り、一気にカルドキアの中軍に迫った。
カルドキア軍を率いていた神官ゾルディオスは、あわてて兵をまとめ国境の北まで退いた。
カルドキアにとってはこれが初めての敗戦じゃった。」
長老はここまで一気に語り継ぎ、乾いた喉を潤すようにワインを口に含み、言葉を止めた。
その合間にまだ十歳にも満たない少年が口を挟んだ。
「ねえ、ねえ・・おじいちゃん、その人の名前なんて言うの・・・どこで生まれたの・・・」
その声に長老はまた語り始めた。
「名前はアリアス・・・生まれたのはこのバルドモス山の懐という話じゃ。」
「そんなことより、お話の続きは・・・」
ほかの子の声が老人に話の続きを急がせる。
「モタリブスを救ったアリアスの元に、多くの兵士が集まった。その中には魔法を使う部族やら、飛竜の背に跨った戦士やら、いろいろな者が集まったそうじゃ・・・。まあ、今考えればお伽噺のような話じゃがな。」
「お話を続けて・・・」
子供達が話の続きをせがむ。
「アリアスの軍は、三つに分かれ国境を越えた。
竜の軍団は山を越え直接カルドキアに向かい、魔法使いを中心とした軍団は、各村の邪教の館を焼き尽くしながら、そこに住む人々を解放し、そしてアリアスの騎馬隊は、カルドキアの属国サルジニアの首都サンドスに迫った。」
「一方、モタリブスの戦いに敗れた神官ゾルディオスは、自分が治める国ケムリニュスに帰り、新たな作戦を考えていた。」
ここまで話し長老は、ゴホ、ゴホと咳き込み、傍らの少年に言った。
「寒くなってきたようじゃ。焚き火にもっと薪をくべなさい。」
「みなも風邪をひかぬよう、もっと焚き火に近寄りなさい。」
長老の話に飽かぬ少年達は焚き火を囲み夜遅くまで長老の話に聞き入っていた。
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