第一部 旅立ち  第二章 追放

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第一部 旅立ち  第二章 追放

ドタバタとけたたましい音をたててサムソンがカミュの小屋に駆け入ってくる。  「終わったぞ、修理完了。ティアも褒めてくれたぞ。」  得意げな大声でサムソンがまくし立てる。  「シーッ。そんな大きな声で。ばれるだろみんなに。」  「ごめん、ごめん。あんまり嬉しかったもんだから、つい・・・」  「小屋の修理が終わったことがかい・・それとも彼女に褒められたことが・・・」  その声にサムソンは頬を赤らめた。  「まあどっちだって良いだろう、そんなこと・・・」  「ところでサムソン、君、ティアを独り小屋に残してきたのか。何かあったらどうするんだ。」  「何かって・・・それにティアが良いって言うから・・小屋の修理が終わったことをカミュやディアスに伝えようと思って・・・」  「ディアスは村にはいない。南の草原に狩りに出た。暫くは帰らないそうだ。」  「何だって・・何を考えているんだディアスは・・・俺達をほったらかしにして自分だけ・・・」  「そう言うなよ、サムソン。ディアスは考えがあるって言っていた。彼のことだから、きっと・・・。」  と口には出しながらも、カミュも不安に駆られる。  「それより、ティアが心配だ。僕は今すぐ山に登る。サムソン、君はくれぐれもティアのことが村人に漏れないよう気をつけてくれ。」  「分かってるよ。俺も男だ簡単には人に話はしないよ。」 カミュは山の木こり小屋に行くのにわざと遠回りをした。最近、サムソンと自分の行動が村人達に怪しまれている節がある。  その目を誤魔化すため狩り道具を担ぎ、太陽が真南に来るまでは山中を歩き小動物を追いかける。そして、一休みという風情でサムソンの木こり小屋に立ち寄る。  遠目に見える小屋には何の変わりもないように見えた。只、真新しい柵だけが増えているように見える。その柵の中でティアが少し足を引きずりながら遊んでいる。  この三日でずいぶん足の調子は良くなったようだ。しかし・・・  カミュは足早にティアに近づきその腕を取る。ほんの小さな少女の悲鳴を無視し、カミュは少女を小屋の中に連れ込む。  「何で外に出た。」  「サムソン、柵の中なら良いって・・・」  (サムソンのやつ・・・)  カミュは心の中で舌打ちをする。  (ティアに自分たちが置かれている立場を話しておかなければ・・・それに、このままずっとティアをここに置いておく訳にはいかない。彼女のこと、ちゃんと聞いておかなければ・・・)  カミュの頭の中に漠然とした不安が拡がる。  「ティア、聞いてくれ。僕たちの村には【けしてよそ者を村に入れてはならない】と言う掟がある。なのに僕らは君を匿っている。それがどういう事か解るよな。」  ティナが小さく頷く。  「いつかは君は、君の国に帰らなければならない・・・その方法は僕たちが考える。だから、それまでは小屋の中にいてじっと隠れていて欲しい。そうしないとどうなるか・・・解るかい。」  ティナも僅かではあるが自分が置かれている立場が解ったようだった。  (もっと早く話すべきだった。)  カミュの頭に後悔がよぎる。  「さて、今までよく聞いてなかったけど、君のこと話してもらおうか。」  「名前、言った・・・私、月の谷に住んでる・・ルミアスの王の娘。」  (王女・・・)  「ある日、友達と二人、花摘みに出た。月の谷いつも、花咲いている。」  「一夜、別邸に泊まり、谷の入り口近くまで行った。そこ、綺麗な可愛い花、咲いている。と友達に聞いた。」  「従者、つれてた。その従者、止めるも聞かず谷の外、出た。すると広い大地にお花畑、拡がっていた。」  「私、広い大地初めて見た。いつも山に囲まれた月の谷ばかり見てた・・・嬉しくて、つい遠くまで行った。」  そこまで話し、何を思いだしたのかティアは不安げな表情で少し涙ぐんだ。  「何も考えず、ただお花ばかり摘んでた。その時、辺り警戒していた従者の胸、矢、刺さった。」  「従者倒れた・・・お花畑の向こうから「ホッ、ホッ」言う声、聞こえてきた。」  (蛮族か・・・)  カミュは口を挟まず、ティアに話を続けさせた。  「友達と二人、逃げた。外でルミアス以外の者会ったら、月の谷戻れない。それ月の谷の掟。」  (そうか、それで未だに月の谷があるかどうかさえ解らないのか。)  「川沿いに逃げた。でも、途中で友達、捕まった。」  「私、足、射たれた。川落ちた。それで彼らあきらめた。」  「川、流され、途中、河原にたどり着いた。そして山、登った。」  「これ、ティアの話。」  「月の谷はどこにある。」  「解らない・・・」  (くそっ・・・ティアの国の手がかりなしか。)  ティアが流された川と言っても上流では川は幾筋にも別れていると、ディアスに聞いたことがある。  それに、万が一うまく川を遡れたとしても、 そこには蛮族が・・・  (無理だ・・・こんな時、ディアスがいれば・・・) 気まずい沈黙が続く。それに耐えきれずカミュが立ち上がる。  「日暮れまで狩りに行ってくる。ティアは外に出ないように・・小屋に隠れているんだ。」 カミュは居たたまれない気持ちで小屋を出た。    日暮れに小屋に帰る。  「やぁ、カミュ。今、帰ったのか。」  サムソンの声がカミュを迎える。  「サムソン、君は暫く来ないはずじゃ・・・」  「アァ、でもまだやり残したことがあったから・・・そう怒るなよ。すぐ帰るから。」  サムソンは辺りの道具を片づけ、とぼとぼと村への道へと向かった。  (時間の問題だな・・ばれるのも・・・)  カミュはあきらめ顔でティアと向かい会った。  囲炉裏端にはティアが作った夕食が湯気を立てている。それを手早く掻き込む。  「もう寝よう。明日も早いから・・・」  かといって、カミュには明日の予定など無かった。只、明日も一日野山を駆け回り、狩りの真似事で時を過ごし、この小屋から人目を遠ざけるだけだった。    サムソンの行動がおかしい。毎日のように山に登っている。それに、カミュも・・・慣れない狩りになど出て山に籠もっている。  山に何かがある。それは村の噂になっていた。  今日もサムソンが山へ向かう。四・五人の男が素知らぬ顔でその後をつける。  サムソンはそれに気付かぬまま、鼻歌交じりに小屋に向かう。  「あっ、この花、冬に咲くなんて珍しな。ティア喜ぶかな。」  独り言と共に不器用な手つきで花を摘む。 「ティア・・・」  サムソンの後をつけていた男が小声で囁き、目配せをする。その視線の先の男が村へ駆け戻る。  木こり小屋に着く。  「ティアー」  サムソンが大声でティアを呼ぶ。ティアは窓格子を薄目に開け、サムソンを手招きする。 サムソンが小屋の中にはいる。と、ティアが怒った様な目でサムソンに言った。  「サムソン、大きな声ダメ。みんなに見つかる。」  サムソンは萎れかえる。それでもティアの機嫌を取るように、  「ティアは外に出て遊んでたら。今日も晴れ渡って良い天気だよ・・・それにほら・・・」  サムソンはさっき摘んだ花を差し出す。  「外ダメ。カミュに怒られる。」  ティアは花だけを受け取り、寂しそうに窓辺へ向かう。  「そうか・・・じゃ俺は昨日の続き・・・」  サムソンは部屋の中の造作を始める。  その様子を外で盗み聞きしていた男達が囁きを交わす。  「やっぱり・・カミュも一緒か。」  「カミュはどこか狩りにでも行っているらしい。あいつが帰るまでに人数をそろえて・・・」  「よし、俺は村に走る。後の見張りは頼んだぞ。」  夕暮れ、カミュが狩りから帰る。その手にはウサギが一羽。初めての収穫だった。  小屋に入る。  「サムソン・・また・・・」  言い終わらないうちに、小屋を取り囲んでいた村の男達が一斉に小屋に雪崩れ込んだ。  「サムソン、カミュ。お前達、村の掟は知っているな。」  カミュは黙って頷く。とうとう、来るべきものが来た。  只、思ったよりずっと早かった。  「お前達二人のほか、仲間は・・・」  喋りかけたサムソンの言葉を押さえ、  「僕たち二人だけだ。」  と、カミュがサムソンに目配せをした。  「サムソン、お前は何か言いかけたようだが・・・」  「ウン。カミュの言うとおり俺たち二人でティアを匿った。他に仲間なんかいない。」 サムソンもそう言いきった。  「ティアか、どこの部族の者だ。」  「彼女は僕たちの言葉はよく解らないよ。片言は喋れるけどね。」  「まあいい、申し開きは明日、村長の前でするがよい。」  「今日はもう日が落ちる。明日の朝、山を下りてもらう。それまでに支度をしておけ。」  「ティアは・・・」  カミュが一番年かさのウィルソンに尋ねる。  「お前も知っているだろう。よそ者を村に入れてはならぬ。と言う掟を・・・」  「じゃあ、怪我した女の子を山に置き去りにするって事。」  カミュが強く抗弁する。  ざわざわと村の男達がざわめく。  ウィルソンの言葉を是とする者もあり、カミュの言葉を是とする者もある。  「分かった。今回だけは例外としよう。ティアとか言ったな。お前も明日の朝一緒に村に来てもらう。」  ざわめきを押さえ込むようにウィルソンがそう宣した。  翌朝、縄目こそ掛けられないものの、周りを男達に囲まれ、カミュとサムソン。そしてティアが村に入る。  村人が総出でそれを見つめた。その中を村長の屋敷まで歩く。  村長の尋問が始まる。  「ウィルソンからの報告は聴いた。」  「村人以外の者を匿い、村の掟を破った。それに間違いないか。」  「間違いありません。」  カミュは毅然と、サムソンは萎れて、声を合わせた。  「その少女・・ティアと言ったな。お前はどこから来た。」  「ティアは私たちの言葉がよく解りません。僕たちも色々訊きましたが、肝心なことは解らないままです。只、山から来て蛮族に襲われここに着いたとだけ言っていました。」  カミュが代わりに応えた。  「うむ、確かに見るからに我々人間とは違うようだ。もしかして、お前はエルフ族ではないか。」  「エルフ族・・・」  柵の外で事の成り行きを見守っていた村人がざわめく。  しかし、その問いには三人とも答えなかった。  「静かに・・・」  村長が聴衆を窘める。  「ほかにお前達の協力者はいるか。」  サムソンは只かぶりを振る。  カミュは、はっきりした声で、  「いません。」  と、答えた。  「ディアスは・・・」  また、外の村人がざわめく。  村長はゴホンと咳払いをし、  「一時は、ディアスも仲間ではないか、との噂も立った。しかし、ディアスはこの噂が立ち始める頃にはもう、村をあとに、狩りに旅立ったという・・・本当に他に協力者はいないな。」  「はい、いません。」  サムソンの胸の中に疑念が湧く。  (ディアスはこうなることを恐れて、先に逃げた・・・いや違う・・・ディアスは必ず助けに来てくれる。)  サムソンは自分の疑念を打ち消し、ディアスを信じようと努めた。  「とにかく、お前達、罪は認めるんだな。サムソン、カミュ。」  「はい。」  (罪・・・罪って何だ。傷ついた女の子を助けた・・・それが罪・・・なんかおかしくないか・・・)  「はい」  と返事はしたものの、カミュとサムソンの胸の中に何か、わだかまりが残る。  「よく素直に罪を認めた。お前達の素直さで今日は早く終われる。後は三人ともカミュの小屋に幽閉。  明日の朝、広場で判決を言い渡す。柵の外の皆も集まるように・・・」    その夜、ディアスは村に帰った。その懐にはこの何日かで狩った三頭のヘラジカと数羽のウサギを売り払い、相当の金があった。  村の酒場に入る。そこら中にカミュとサムソンの噂が渦巻いている。  いつもの平穏に慣れた村人にとってそれは、天地を震わすような出来事だった。  (遅かったか・・・しかし判決は明日。それまでに準備を整えないと・・・)  ろくろく酒も飲まずディアスは酒場を後にする。  まず、鍛冶屋を訪ね、鍛えあがった鉄の剣を手にする。  それから皮の服、食料、野宿用のテント、と注文していたものを次々と受け取る。そのたびにディアスの懐は軽くなってゆく。  (チッ、これだけか・・・)  獲物と引き替えに得た金が、革袋の底に僅かに残るだけになっていた。  (仕方がない・・・後は道々狩りをして・・・・)  村はずれに繋いだ二頭のロバの背に振り分け荷物を載せる。一頭の背は、まだ歩くのが不自由なはずのティアのために取ってある。  全ての支度を終え家に帰る。ドアを開けると母親が抱きつかんばかりにディアスに駆け寄る。  「ディアス、今帰ったのかい。わたしゃあてっきりお前もサムソンやカミュの一味かとおもいドキドキしていたよ・・・ああ・・良かった、あんたが無実で・・・」  まるであの二人が極悪人でもあるかのような言い様だ。  「ああ・・・」  ディアスはそれに生返事を返す。  「ディアス、わしも心配していたがお前ももう大人だ。あんな事に荷担して無くて良かったぞ。  まあ・・わしはお前を信用していたがな・・・・」  ハッハッハッという乾いた笑い声と共に父親は話を続けた。  「ところでディアス、狩りはどうだった。」  「ああ、ヘラジカが三頭。ウサギが六羽。帰る途中で売ってきた。」  「ほう、それじゃあ結構な金になったろう。その金は大事にして、俺がやったよりもっと良い狩り道具を揃えることだな。」  父親は満足しきったように酒を煽り自分のの寝室へと向かった。  (こんなものか、この村の者は・・・)  ディアスも父の後を追う様に自分にあてがわれた部屋に入った。  (明日・・・とにかく明日・・・まずは体力をつけて・・・)  ディアスは眠りに落ちた。  しかし、カミュの小屋に軟禁された三人は夜遅くまで今後の身の振り方を考え、話し合った。しかし、翌日の判決を待たない限り、答えは出ない。  その夜はまんじりともせず朝を待った。  「サムソン、カミュそしてティア。」  夜明けと共に村の若者が三人を迎えに来る。 「判決の時間だ。広場へ・・・」  大勢の村人に遠巻きにされ、三人が村の広場へと向かう。  三人を前に村長が席に着く。  「それでは判決を言い渡す。」  「これは、儂も夕べ一晩よく考えた末の結論だ。不服のある者は、儂の話が終わってからにするがよい。」  「さて、サムソン、カミュ。確かに傷ついた少女を見て助けたのはよく分かる。  しかし、村には村の掟がある。それはお前達も解っていると思う・・・それを破ったお前達の罪は重い。  だが・・しかし、お前達はまだ若くもある。よって・・・罪は罪として、お前達二人は今まで通りこの村で暮らすがよい。」  広場全体に安堵の空気が拡がる。そしてサムソンもホッと胸をなで下ろす。  しかし、カミュはまだ気を許していなかった。  (まだ、ティアのことがある。)  そして、大勢の村人の中に混じったディアスも・・・  「そしてティアとやら・・お前ももう解っていると思うが、この村にお前を置いておく訳にはいかない。よってこの村から追放。昼までにこの村を出て行く様に・・・」  「そんな・・・それじゃあ・・・」  カミュが椅子を立ちかける。その肩を村の若者が押さえつける。  カミュの言葉を遮る様に村長が言葉を続ける。  「以上、判決を下した。何か異議があるものは・・・・」  村長の声にざわついていた広場が静まる。  カミュは下唇を噛み下を向く。  サムソンは呆気にとられたように空を見上げる。  「異議がある。」  その時、凛としたディアスの声が村長に投げかけられた。  広場の目が、立ち上がったディアスに集まる。  その中をゆっくりと広場の中央に進み出、ディアスは話し始める。  「今の判決に異議があります。」  真っ直ぐに村長の目を見つめ、ディアスは語った。  「一つ、罪は罪として二人を許す。と言うことですが、罪を犯したものは必ずそれを償わなければならない。」  せっかく村長が寛大な処置を考えているのに、なんと言うことを・・・広場に集まった村人がざわめく。  その声を押さえつけるようにディアスが続ける。  「二つ、ティアを村から追い出すと言うことだが、か弱い少女を村から独りで追い出す。それは山賊や、盗賊の餌食にするためこの村を追い出す様なものだ。事実上の死刑に等しい。」  確かに・・・それは間違いない。ディアスの言葉に賛同する空気が広場に拡がる。  「三つ。そもそも、人を助けることが・・・たとえそれがエルフであっても・・・それがなぜ罪になるのか教えて欲しい。」  「そして最後に・・・この件の首謀者は俺だ。」  どっと広場に大きなざわめきが拡がってゆく。その中、ディアスの母親は顔を手で覆い泣き崩れる。  「俺が、サムソンと幼いカミュをそそのかし、サムソンが見つけたティアを匿わせた。全て俺の意思で、それに従い二人は動いていた。  どうしても罪があるというなら、それは二人にはない。俺にある。」  「村長、聞かせて欲しい。村人以外の者を助けるのがなぜ罪になるのか。」  「それはお前も少しは知っておろう。この村には忌まわしい過去がある。二度とあの様なことがないよう・・儂には村を守る義務がある。それだけの事じゃ。」  広場に集まった村人達は疑念は抱えながらも村長の言葉に賛同の空気を拡げる。  「掟は掟・・・それは解る。しかし、あなたも知っての通り俺はよく村を出る。  そこで聞く話では、中原では今は収まっているとは言っても、いつまた戦の火の手が上がるかもしれない。そんな中、この村だけが時の外でいいのか。俺はそうは思わない。  掟は掟。確かに今までは自分たちの中だけで、それで安穏に暮らしてこれた。しかし、これからもこのままこの暮らしが続くとは俺には思えない。  今すぐ掟を変え時の流れに取り残されない様に村を守るのが我々の使命ではないのか。」  「何を言い出すのかと思えば・・・ディアス。はやりたつものではない。村人はお前の言をいれるものではない。  我々は今まで通りこの村の掟を守り、これからもそうやって生きてゆく。」  村長の言葉は殆どの村人の考えと言ってよかった。人々の間に安堵と賛同の空気が拡がる。  「そう言うと思っていたよ。昔、ダルタンが皆に呼びかけたときもそんなものだったんだろう・・・よく解った。」  「何が解ったと言うんだディアス。お前もまだ若い。悔い改めてティアを追放し、平和にこの村で暮らすがよい。」  「村長、掟は掟とおっしゃったな。  ならば罪は償わなければならないはず。  おれはティアと一緒に村を出て行く・・・」  「なんだと・・・」  「そうか・・・解った。では出て行くが良かろう。  儂の気持ちも分からずそのような放言を放つ・・・・  カミュ、サムソン先ほどの判決、お前達はどう思う。悔い改めるのであればこの村に残るがよかろう・・・さもなくば・・・」  カミュが立ち上がる。  「僕はディアスと一緒に行きます。」  その後に次いでサムソンも  「俺も。」と珍しく力強く宣言した。    村はずれで旅立ちの準備を進める四人の元にディアスとサムソンの両親が訪れる。  ディアスの母親は幾ばくかの金を手に、そしてサムソンの母親は革袋一杯の干し肉を手に。  その後ろからディアスの父親が声をかける。  「お前達、これからどうするんだ。行く当てはあるのか。」  「ああ、大丈夫だよ、ちゃんと考えてある。」  その声にディアスが答える。  「さっき広場でダルタンのことを言っていたが、あいつは・・・」  「ハハハハ解っているよ。」  ディアスは父親の言葉を笑って相手にしなかった。  太陽が真南に移る。  「お前達。時間だ。」  村の役人が冷たく声をかける。  「さて、行くか。」  ディアスが三人に声をかける。  ティアをロバに乗せ、ディアスの腰には鍛えたばかりの鉄の剣。  カミュは肩に鳴きトカゲを乗せ、サムソンは大きな荷物を背に・・・徐々に村から遠ざかっていった。  北の門から村を後にする我が子を、サムソンとディアスの両親は目に焼き付ける様に見送った。
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